文芸道
□7月のある日・4
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雄叫びながらキーボードを叩く集団のその姿は、やっていることは地味でも戦場の戦士を思わせる気迫だ。
ガシャガシャガシャガシャと文芸部2年、白木樹季は無言でパソコンのキーを叩く。
緑ヶ丘高校の文化部が運動部より熱血なのは、今更突っ込んでも仕方のない事だった。
「なあ白木――――っ!!」
叫ばれた。
「なぁんですか部長おおおおおおう!?」
叫び返した。
断じて部員の空気に乗せられているわけではない。
部屋全体がやかましいので樹季も叫ばないと聞こえないのだ。
「締め切りまであと何分だあああああああ!?」
「よんじゅっぷん切りましたあああああああ!!」
傍から見れば狂気の沙汰のような会話のキャッチボールであった。
***
「いやあ、今回も全員無事締め切り内に作品の提出ができたな」
爽やかな汗を手の甲で拭いながら、緑ヶ丘高校文芸部部長は、乾杯の意味を込めて缶ジュースを軽く上に上げた。
他の部員もそれに倣っておのおのお茶やジュースを掲げる。
樹季は一人、手を挙げる気力もなく部室の中央にある丸テーブルに頭を突っ伏して力尽きていた。
部長も徹夜3日目の樹季の疲労を組んでくれているのか、そっとしておいて……
「さて、白木!」
くれなかった。
先輩に呼ばれて無視するわけにもいかない。
白木は諦めて顔を上げる。
「はい」
「お前、今度の部誌ではホラー作品禁止な」
「え、なんでまた急に」
樹季がそう言うのも無理はない。
樹季の作品はホラーや寓話、推理モノといった、暗めのものが多いのだ。
いきなり禁止されても困る。
「お前のホラー、半端なく怖いからけっこう苦情多いんだよ」
「むしろ嬉しい限りです」
「うん、俺も作品の質としては素晴らしいと思うんだけどな。素晴らしいからこそ手加減を知ってくれ」
「今のところホラー以外を書く気は起きないんですけど」
「……ほら、女の子らしく恋愛ものとか、ファンタジーとか書けないか?」
遠まわしに女らしくないと言われたようなもので、樹季の眉がぴくりと引きつった。