文芸道

□7月のある日・4
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「精々絡まれんようにせえ」


ある理由から、人を寄せ付けないようにしている綾部だったが、数年掛けて培われた世話焼き癖は直らない。

……それでなくても、行き場の無い女子を放り出すなど非道なことはできないが。


「……わいなんて、……ってないよ」

うつぶせの状態で、樹季が小さく呟やく。


殆ど寝言のようになってしまっているそれは、綾部には聞き取れなかった。





***





樹季が桶川恭太郎に感じているのは、恐怖とは別のものなのだ。




「おらあああああああああ!!」





遡ること1か月前。放課後の話である。


部室棟の中にあるひとつの部屋に、暑苦しい……いや、猛々しい声が響いていた。



「うおおおおおおお!!」


「気合入れろー!!」


「俺達で……俺達でこの苦境を乗り越えるんだぁぁぁあああ!!」


「皆頑張れ!俺が付いてる!」



「「「おおおお!部長オオオオオ!!」」」


室内に籠る熱気。

筋骨隆々とした男子生徒の雄叫び。







――運動部みたいだろ?





――文芸部なんだぜ、これ。



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