文芸道

□7月のある日・2
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しばらく待っていると、もう一度ドアが開いて桶川先輩が出てきた。


「お前が探してる奴だが……」

桶川先輩が何か話しかけてくれていたが、私はそれどころじゃない。
開いたドアの隙間から再び見えた部屋の中。

やっぱり猫がいる。間違いなく猫だった!

なんで男爵髭ついてんのあの猫!!


「おい、聞いてんのか」

見てませ、あ、いや、聞いてませんでした。

「だから、ここは第一寮。お前の探してる奴は第二女子寮だ」

ほら、と渡されたのは風呂掃除振り分け票。日付の下に担当生徒の名前と学年、部屋番号が書かれている。

部屋番号を確認して、振り分け票を返そうと先輩を見ると、先輩は廊下に出て自分の部屋に鍵を掛けている所だった。

お?


「行くぞ」
行くぞということは、案内してくれるんだろうか。なんていい人だ。

案内してもらって、事務員さんに鍵を貸してもらう交渉をして貰うだけでも有難いのに、目的の部屋の前に立った桶川先輩は部屋のチャイムまで押してくださる。


……本当に迷子扱いなんだなあ……。


いや、迷子だけど。


「はーい」

ドア越しに返事の声と、足音が聞こえる。
電話しておいたからか、すぐにドアは開いた。

「おい、なんやねんさっきの電話……」
普段なら、ここでもう少し小言が続くところだ。


が、顔を顰めながら出てきた彼と目が合ったのは元番長・桶川恭太郎であって。


「!?」



びくうっと部屋の主、綾部麗人の肩が跳ねる。

先に口を開いたのは桶川先輩の方だった。
「妹が迷ってたぞ」
「へっ!?」

何故か少し青ざめながら、綾部が素っ頓狂な声を出す。
すごい勢いで顔をこちらに向けた綾部と目が合った。


「はっ!?」


はい。妹じゃなくて私です。白木樹季です。
迷ったので送って頂いた旨を話すと、綾部は口の端を引きつらせながら先輩に頭を下げていた。
なぜだろう。この子、私の母より母らしい。


「ありがとうございますは!!」

綾部にせっつかれながら頭を下げ、帰っていく番長の背中を見送ってから、ようやく目的の人物の部屋にお邪魔することができた。

「……白木。自分、どういう説明したんや」
なにも説明しなかったらこうなったのだが、これはやはり私は桶川先輩を騙したことになるんだろうか。

だとしたらちょっとまずいなあ、と思いながら、私はスリッパを脱いで綾部の部屋に上がることにした。



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あとがき。

そういえば原作で番長のことを先輩呼びしてる人いないなあと思った。

ふいに後輩から呼ばれて、呼ばれ慣れてない先輩呼びに動揺する番長が見たい。



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