文芸道
□7月のある日
2ページ/2ページ
少し考えて、また電話を取った。
たまたま覚えていた学園寮の番号を押す。
電話に出た事務員さんに、目的の人物に取り次いでもらい、その人物が要件を聞いてくる前に、今から行きますとだけ言ってまた電話を切った。
人間、逆境に立たされても、なんだかんだでうまくやっていけるものである。
楽あれば苦あり、人生万事塞翁が馬、七転八倒。
あ、違う、七転八起。
こうなったらなにがなんでも安定した生活を手に入れなければ。
そう気合を入れて、向かった先は緑ヶ丘学園男子寮。
先程電話をした人物が住んでいる部屋へと階段を登り、チャイムを押した。
すぐにガチャリとドアが開く。
「誰だお前」
……部屋間違えた。
間違えたなら間違えたで、謝って失礼すればいいのだが、なんと、間違えた部屋の住人はつい先日まで我が高校で番を張っていらっしゃった桶川恭太郎先輩だった。
どうしよう、何を言おう。
まごまごしている間に、桶川先輩は怪訝そうな顔で寝巻(しかも甚平)姿の私を睨むように見下ろした。
「迷子か」
私あなたのひとつ下なんですけどね!!
寝巻なので、兄弟のところに泊まりに来ている家族だと思われたらしい。
「誰探してんだ」
すっかり勘違いされている。
訂正しようかとも思ったが、火事になってどうこうまで説明する流れになってしまいそうなので、申し訳ないが勘違いされたままにしておく。
桶川先輩に目的の人物の名を伝えると、先輩はちょっと待ってろ、と言って部屋へ引っ込んだ。
……ちらりと見えた部屋の中に、やけに猫グッズが置かれていた気がしたのだが、気の所為だろうか。
----------
あとがき。
夢主の格好は、寝起きのボサ髪、甚平、避難時につっかけてきたスリッパ。
そりゃあ侵入者なんて思われない。