文芸道
□ほんとうにこれでよかったの?
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発破をかけてやると、思った通り簡単に高坂は本音を漏らした。
「――それでお前の目的は果たされるってわけか」
大きくなった動揺の声が、携帯の向こうから聞こえてくる。
『な、何を……』
狼狽を最後まで聞く事無く、河内はふっと息を吐き、言葉になっていない高坂の声を遮る。
「お前の目的は……この学校の評判落としってところか」
淡々とした声を電話口に送り、飄々としていた表情には徐々に鋭さが浮かんでくる。
高坂が更に焦った声を出していたが、河内はそれを聞き流して電話を切った。
電話口からの声が聞こえなくなった代わりに、廊下を走る騒々しい足音が聞こえてくる。
金髪の男が、黄山の不良に追われていた。
「金髪か……気の毒にな」
明らかに状況が呑み込めていない金髪の男に対して、集団になって襲いかかる不良たちが、怒鳴り声を喚き散らした。不自然なほど頭に血が上っている様子で、不良というよりも、獲物を追いかける獣と言った雰囲気だ。
河内は何とはなしに、金髪を追う不良の数を数える。
最初に追いかけていたのが二人。角で合流したからこれで五人。
遅れて廊下から姿を一人現した。六人。
また遅れて一人、樹季が姿を現した。七、
七、な……
「……な、」
なにやってんだあいつ!?
まだ樹季の姿が猫耳ウェイトレス姿だったのは分かる。だけど、なぜ宣伝用の看板を木刀のように構えて黄山を追いかけている?
あまりの衝撃に、河内は携帯を持ったまましばらく立ち尽くしていたが、すぐに我に返り、樹季の後を追う。幸い、普段から喧嘩で体力作りをしているお陰ですぐ追いつくことができた。
「おい!!」
看板を持っている樹季の腕を掴んで引き止める。一瞬、樹季の体が強張った。
「っ!」
「落ち着け、俺だ」
「河内君!」
「お前、何しようと」
「あれ、い、今追われてるの、早坂君、」
樹季は、普段の大人しさからは考えられないほど取り乱していた。顔色も青く、看板を握っている手も真っ白だ。
「きやまに、河内君喧嘩売ったって、それ、このためなの、これ私の所為なの、ねえ」
思考が上手く纏まっていないらしい。
ほんの数日――自分や河内、生徒会の行動より導き出した答えを理解して紡ぎだされた言葉。
「黄山に、学校を滅茶苦茶にさせるのが目的なの?」
「……」
たった一秒。一瞬の沈黙。それが、河内の答えの全てであり、同時に、肯定の合図だった。
河内が瞬きした。