文芸道
□ほんとうにこれでよかったの?
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文化祭当日。
衣装合わせの時と同じように、例の服を着て看板を持つ。午前中は呼び込みの仕事を任された。
『猫カフェ』と書かれたチラシを持って校内を徘徊する。
「そういえば白木さん、この間白木さんの後輩の男の子が教室に来たよ。このクラスに白木って人いますかーって」
看板を持って一緒に呼び込みをしているクラスメイトの言葉に、ぱっと浮かんだのは文芸部の後輩たちだった。普通後輩と言われたら部活の事を考える。
「不良さんだったけどかっこよかったよ」
あ、違うわ。
文芸部の男子は総じてマッチョで強面なので、申し訳ないが印象として『かっこいい』の言葉は出ないだろう。
じゃあ誰だ、と思いながら校内を回っていると、私達の横を見慣れない制服が走り抜けていった。
「あれ、黄山高校だ」
珍しいね、なんて、のんびりとした口調でクラスメイトが言う。
――黄山?
黄山って確か、河内君が喧嘩売ってたって――
ぞくり、と嫌な予感が背中を駆け抜ける。
私は黄山の制服を着た二人組から目を離すことができず、その姿を目で追った。
「白木さん?どうしたの?」
話しかけてくるクラスメイトの手に、持っていたチラシを押し付ける。代わりに、クラスメイトが持っていた看板をひったくって、私は黄山の生徒が走っていった方向に駆けだした。
「え、ちょ、白木さん!?」
後ろで私を呼びとめる声が聞こえる。
聞こえないふりをして、私は走った。
***
文化祭の喧騒から遠い部室棟四階。
そこの窓に腕を乗せ、河内は携帯での電話相手の声に耳を傾けた。
『……まさか、あの桶川が動き出すなんて』
電話の主、高坂の声は電話越しでも分かるほど強張っており、予想外の出来事に動揺していることは明らかだった。
「どうする?やめたいのか?」
『とんでもない、校外を防がれた所で校内の揉め事は消せません』
「そうか――」
大した指揮官様だ、と内心馬鹿にする。