文芸道
□渦中の中で翻弄されて眠る
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愕然としたように夏男は机に目を落とす。しばらく沈黙したあと、だんっと拳を机に叩きつけた。
「まさか……あんなハニートラップの上級者だったなんて……!」
「何の話だ」
「いやあの時白木先輩、メイド服の猫耳でさ、なんかの出し物なんだろうけど」
樹季の姿を思い出したのか、夏男は場に合わない緩んだ顔で、早坂に向かってガッツポーズをする。
「確かにあれで呼びこまれたら文句も出ねえよだって可愛いもん!くそっ、写メ撮っておくんだった!!」
「……お前女苦手じゃなかったっけ」
「変態が」
「だってマジで可愛かったんだよ小さいしふわふわだし猫耳だし!!」
早坂と佐伯、それぞれのコメントを受け、夏男はそれこそ必死に反論する。
さっき樹季を庇った時より必死度が高い。
「あんな姿で上目使い使われてお願い事されたら誰だって――」
そこでふと、夏男は言葉を切った。
袖を引いて。
遠慮がちに上目使いで。
――白木先輩はあの時、なんて言った?
「……違う」
急に声を落とした夏男に、佐伯と早坂も呆れた顔をやめ、夏男を見た。
「白木先輩は、生徒会側じゃない」
「はあ?」
「あの時、俺達、三人に分かれたんだ。桶川さんが三階で、後藤が一階。俺が神隠しのあった、二階」
手を顎に当て、夏男はあの日のことを思いだす。
あの時、『夏男』は樹季と初対面だったはずだ。
「なのに、先輩は桶川さんでも後藤でもなく、二階に居た俺に付いて残った。それ、神隠しをしてる奴らと組んでるにしては、おかしくないか?」
「……確かに、お前が見回りで二階に残るって分かってるなら、態々一緒に残る意味はないな」
むしろ、組んでいる事を悟られないよう、なるだけ現場から離れようとするだろう。
「それに、先輩は俺を『神隠し』に巻き込まないようにしてくれてた。……あの時、先輩、『ここから移動しよう』って言ってたんだ。『神隠し』を止めようとしてた」
樹季の意図はまだ分からない、でも。
「俺、先輩と話してくる……!」
確かめなければ。
夏男は、佐伯が止めるのも聞かず、数学研究室を飛び出す。残された佐伯と早坂は、微妙な表情を浮かべた顔を見合わせた。
「……佐伯」
「なんだ」
「あいつ、白木のクラス知ってるのか?」
「知らねえだろうな」
あと、樹季はクラスでの出し物練習が嫌で、最近サボりがちなのも知らないに違いない。
神隠しが終わった途端、休みの回数が増えたことも、佐伯が生徒会と樹季の協力を疑った理由であるのだが、流石に出席の話は個人情報に触れてしまうので、教師としての立場からは伝えらえなかった。最近の教育界は厳しいのだ。
「まあ、あいつのことだから教室全部回るなりするだろうな」
完全に他人事のような口調で、佐伯は呟いた。
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あとがき。
風紀部での話し合い。
どんなに重い空気になってもあら不思議、真冬さんを投入するとギャグになります。
……夢主のコスプレにときめいてるのが真冬さんしかいねえ……