文芸道

□協力スペクトル
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「へー、神隠しなー」

少し場が落ち着いて、最近話題になっている神隠しの話を聞いた後藤は、板を持ち直しながら頷いた。


「なんでてめーもついてくるんだよ、後藤」

「えー?このまま帰るのもつまんないし」


後藤の視界の端で、後藤たちに付いてきていた樹季が、何か言いたげに顔を上げるのが見えたが、後藤はそれに気付かないふりをする。大方、早く教室に戻って板を渡して来いよ、と思っているのだろう。結局、板はすべて後藤に持たせる形になっているので樹季は何も言わなかった。


「それに気になるじゃないですか、3年ぶりの文化祭で再び事件ですもん」



また中止になるかも、と続ければ、え?と樹季が首を傾げた。


「あれ、白木、知らねえの?緑ヶ丘の文化祭の事件」


ふるふると樹季が首を振る。
黙ってさえいれば小動物みたいで可愛いのになあ、と思いながら、後藤は樹季と、樹季のことが気に入ったらしい夏男に、3年前の大乱闘事件について語って聞かせた。

新聞にも載る大事件だったとまで聞いて、樹季と夏男は苦々しい顔をする。


「それって有名な話なんですか?」

「どうかな、詳しく知ってる奴はあんまり……」

神妙な顔で訪ねてくる夏男に、後藤が返事をしようとしたが、丁度そのタイミングで樹季の持っている携帯が鳴った。



「ごめん」



画面を見ずに切ったところを見ると、アラームだったんだろう。

いいですよーと蕩けたような表情で樹季に微笑む夏男は、アラームで思い出したのか、自分の腕時計を確認してから、警戒したように廊下を見渡す。

そういえば、もう五時が近い。向かいの校舎の学生たちも神隠しの噂を気にしているのか、皆走って教室に避難していた。

でも変だ。ここまで騒ぎが大きくなってるのに。


「先公とか動かねえの?」

「ああ、それは……被害者が覚えてないから……」


そこで夏男は言葉を切る。

代わりに、樹季が何かを伝えようと口を開いた。ように見えた。

樹季は、驚いても怒っても表情にそれが出ることが少ないので、何を思って樹季が口を開こうとしたのかは分からないが、ちらりと桶川のほうに視線をやったので、おそらく桶川に関係することだろう。


「じゃあ俺は3階にいりゃいいんだったな」


当の桶川は樹季の視線に気付かないのか、あえて気付かないふりをしているのか、樹季に背を向け、階段の方へ向かった。
後藤は反射的にその背中を追う。


「俺も手伝いますよ」

「一人じゃねぇと意味ねぇんだろ」

「じゃ俺は1階行けばいいんスかね……ねえ桶川さん」



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