文芸道
□風紀部のイケメンさん
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「ふ……ふおおおおおおおおおおおおおおああああああああ!!」
「!?」
ガッツポーズの体勢で腹の底から叫び声を挙げる夏男。
びくっと隣にいた桶川が驚いて夏男に視線を戻すが、すぐに後藤の後ろから板を抱えて歩いてくる樹季の存在に気付き、軽く身を反らした。
「……あ」
一瞬、桶川と樹季の間に、薄い緊張の空気が流れる。が、それは傍に居た第三者によって容易く霧散された。
「そのお荷物お持ちしましょうかお嬢様!?」
「おじょ……?」
文化祭の仮装姿の樹季に片膝を付き、いきなり輝いた笑顔で近寄ってきた夏男に、樹季が一歩引く。
「後藤君にも持って貰うので、だいじょ……」
「後藤てめえ何可愛い女の子にこんな荷物持たせてんだコラァ!?」
「い、い、いや、ちゃんと俺も持ってたんだけど桶川さん見つけたからつい任せちゃっ……って、てっめー夏男じゃねぇか!!何ノコノコ現れてんだコラ!!!」
「げ」
今度は夏男が一歩引く。
そういえば、番長奪い逃げの件の事を忘れていた。
普段へらへらしていても一端の不良。夏男に負けない勢いで不満を言ってくる後藤に夏男の顔から血の気が引いた。
「その件につきましては誠に遺憾に……」
「ああ!?ふざけんなよ!!」
しどろもどろに弁解をするが、却って後藤の気に障ったようで、後藤は額に青筋を浮かべて夏男の頭を掴もうとした。
やばい、カツラを掴まれる。
学ランを着て男装をしていても、流石にカツラを取られては正体がばれる。
万事休すか、と夏男が身を固くした時だった。
「後藤君、重い」
いいタイミングで樹季が後藤を呼び、後藤の動きが止まる。
その隙に夏男はさっと後藤から距離を取った。
「今それどころじゃないんだよ!察しろよその位!!」
夏男の姿を目で追いながら、後藤は興奮冷めやらぬまま、樹季に怒鳴り声を返した。
女の子に向かってそんなに強く怒鳴ったら怯えちゃうだろうが!!
自分の事のように込み上げてくる怒りに、夏男は口を開こうとした。が。
ガァン!!
壁や廊下に反響する大きな音に、後藤、夏男、桶川の視線が一点に集まる。
「……それどころ、ね」