文芸道

□風紀部のイケメンさん
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それにしても、後藤は私が着替えるのを待つ間、ナチュラルに出し物の準備を手伝っていたが、不良のナンバー3としての自覚はあるんだろうか。あまり一般人と関わるのはよくないんじゃないだろうか。

「誰か看板に使う板取ってきてー」

「あ、俺行こうかー?」

「じゃあ後藤頼む」


パシられてる!!


「じゃあ白木、行くか」


なぜ当然のように誘う!?


「二人で行くんなら三枚くらい取ってきて!」

「中サイズのやつなー」


私は知っていた。

二年四組には、不良を含めそれほど冷たい性格の人物はいないが――

細かいことを気にする人物が圧倒的に少ないことを。


そして、私は知っていた。

せめて着替えさせてくれと主張しても、え、何で?というすっとぼけたクラスの視線が返ってくることを。


言葉を選ばずに言えば、度を越した天然と間の抜けたタイプのバカが多いのだ。

その証拠に、誰一人として、私が仮装用の衣装を着たまま後藤に連れていかれそうになっていることにツッコミを入れようとしない。

とっさに私は机の上に広げていた携帯とネタ帳、財布を掴む。いかなるときも貴重品を手放さないようになったのは、火事の時の教訓だ。
制服のブレザーにも同時に手を伸ばすが、間に合わなかった。待って何か羽織らせて、と私が口を開く前に、私の体は廊下に引き摺り出された。





***





黒崎真冬、もとい夏男は困っていた。


さっきから桶川番長がやけにじろじろと顔を見てくるのである。

最初こそ、何か伝えたいことがあるのかと思ったが、どうやらそうではないらしく。

廊下を歩いている時も隣を歩きながらガン見してくるのでとうとう耐え切れなくなり、顔を隠すように学ランを羽織れば、隠れるなと怒られた。



「じゃあ見ないで下さいよ!!!」



人気がないとはいえ、ぎゃあぎゃあと廊下の真ん中で騒ぐ不良二人(しかも前番長と現番長)。


神隠しの調査をしたいのにこれではやりようがない、と若干夏男が涙目になってきた時だった。



「あーっ!!!」



広い廊下に響き渡った大きな声に、思わず夏男と桶川の意識がそちらに向いた。

「もーっ、やっと見つけましたよ桶川さん!!!」

ばたばたと廊下を走ってくる男子生徒に反応したのは桶川の方だった。

「……後藤か」


夏男は後藤と呼ばれた男子生徒の方に向きなおる。


桶川の視線が外れて良かっただとか。

とりあえずカツラがずれてないか確認したいなだとか。

後藤がなんだか河内がどうのこうの言ってるな、だとか。




後藤の後ろに居る人物が目に入った瞬間、そんな思考のすべてが吹っ飛んだ。




ひらひらふわふわのメイド服を基調にしたエプロンドレス。

そのドレスのデザインに合わせたホワイトブリム。

そして、そのブリムの横からぴょこっと出た、猫耳。







……きた。






天使がきた!!



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