学怖短編

□グレープの小さな咆哮
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・付き合ってる設定の同級生



「今度の土曜は一緒に出かけようって言ったよね、言ったよね?」
「……おう…………しょうがねえだろ」


眠気がこないよう、もごりと口の中で飴を転がしながら、新堂が返事した。


「補修が入らないようにしてって言ったよね。だからテスト勉強さぼるなって言ったよね。予習復習をこつこつするようにって、」


「謝ってんだろ」


会話がだんだん説教じみてきた瞬間、


「予習復習やって赤点だったんだから仕方ねえだろ!!」

ガンッと新堂は補修プリントが散らばった机に頭を打ち付けた。ああ、勉強はしてたのか。それでも赤点だったのか。

「大体な、俺は勉強して欲しいなら邪魔するなって言ったよな!?一緒に居るにしても静かにしてろって言ったよな!?それを無視して延々とちょっかいかけてきてたのはお前だろうが!!」


がばりと起き上がって、反論の言葉を浴びせる。ぶっちゃけ、新堂の言うとおりだ。彼がノートを開いてる間、構われないのがつまらなくて十分おきに話しかけていたのは私である。つまり、今回彼が赤点を取ったのはほぼほぼ私の所為なのだけれど。


「最終的に構ってくれちゃう新堂の意志が弱いのが悪い」

「はあ!?」


やめろと文句を言うのは最初の一二回。後は普通に手を止めて私のおしゃべりに乗ってくれるこの彼氏は、とことん私に甘いと思う。


「新堂が私に甘いのがいけないんだあ」


新堂の机に顎をのせてにまにま笑うと、新堂は苦い顔をして黙り込んだ。ほら甘い。

今この瞬間も、私の存在は補修プリントをやっている新堂にとって邪魔者以外のなにものでもないのだけど、新堂は私を追い出すなんて事絶対にしない。

構え構えとえへえへ笑ったら、バーカって新堂に言われて頭をぐしゃぐしゃにされたけど、もしかするとこうやって楽しそうに笑う新堂も実は私が邪魔しにくるのを待ってるのかもしれない、新堂にデコピンをされながらそう思いついてしまった私は、上機嫌で新堂の膝に乗った。




「おい、邪魔」

流石に文句は飛んだけど、これくらい屁でもない。

「……お前、ちょっと重くなったか」

これは見逃せない。


私は素早く新堂の腹にパンチを入れた。
硬い腹筋だ。畜生。


「……すぐ終わらせるから大人しく待ってろよ、頼むから……」
「イヤ」


構って欲しい気分なのだ私は。今日は一緒に遊びに行く予定だったから余計に。

新堂にもたれるようにして体重をかけていると、新堂がはぁ、と大きく溜息を吐いた。と、思ったら顎を掴まれ上向かされる。


「ん」


噛みつくように唇が重なったと思ったら、ころりと私の口の中に飴が入ってきた。科学甘味料グレープ風味。


「それやるから大人しくしてろ」


そう言いながら、私を自分の具合のいいように抱き直して、机に向かう。

ほらここで膝から下ろさないところとかさあ。
わがままに対して飴をあげちゃうところとかさあ。


「新堂が悪い」


私がわがままをやめられないのも、構ってちゃんのままなのも、ついでに最近ちょっと太ってきたことも。

私は、補修教室の外に目をやって、誰も来そうにないことを確認する。


そして、今度はこちらからキスをしてやった。
補修のプリントがぐしゃりと鳴った。














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あとがき。

頭が上がらないってほどでもないけど、無意識に甘やかす新堂さん




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