「名前のないavventura」
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第二女子寮棟を抜けるといつの間にやら空は泣きだしていた。どうも湿っぽいと思ったら。
確かにさっきからどんよりとした雨雲がこの辺り一帯を支配していると思ったが、まさかこんなに早く降るとは思いもしなかった。
口を尖らせそうになった澪架深だったが、その前に、何やら前方から、見覚えのある顔が上機嫌で手を振りながら近付いてきた。
「澪架深ちゃーん!!天深君から話聞いた!?」
片手に自分の傘、もう片手に缶ジュースと、おそらく澪架深の分の折り畳み傘を持った渋谷。うきうき、という擬音が聞こえそうなほど顔を輝かせている。なにかいいことがあったか。
「風紀部のことー?」
「……それと、番長のこと」
「ああ、風紀部にいるって聞いた」
「そうそう真冬センパイ、マスコット番長だったって話、聞いた?」
澪架深の表情が凍り付いた。
まるでドライアイスの手に鷲掴まれたようだった。
「……え?」
渋谷から缶ジュースと傘を受け取り、雨の中を歩きながら、衝撃の話を聞く。
曰く、元東校番長黒崎真冬は、実際の所喧嘩なんて強くなく、単にヤンキーから気にいられてるだけの、お飾り番長だった、と。
本人の口からそう聞いたと言うのだ。
「……なにそれ」
「まーまー、がっかりする気持ちもわかるけど、真冬センパイも多分、喧嘩できないのに祭り上げられて、困ってたと思……」
「アッキー、番長の名前知ってたってこと!?なんでもっと早く教えてくんなかったの!?」
「そこぉ!?……って、ええー!?てっきりもう知ってるかと………………俺、結構『黒崎真冬』の名前出してたと思うんだけど!!」
「知らんよ!また引っかけた女の子の名前かと思ってた!」
あまりにあまりな誤解だ。