「名前のないavventura」

□1
2ページ/2ページ



黙った俺とは逆に、慌てたような声を出したのはみかだ。




「俺だよ。山下」

「なんで目隠しするんですか?」




隣で、俺の気遣いを吹っ飛ばす会話が聞こえてくるが。聞こえないふりして、寒川が西校生を追っ払うのを待っていた。




ゴッ、バキッ。



鈍い音が聞こえてくる。視界がない分えぐい。





大久保さんは俺達に、「……ここ、危ないから離れようか」と移動を促した。


そしたらみかは嬉しそうに、「どこ行くんですか」とわくわくした声を出していた。期待が含まれているのが分かったのか、大久保さんたちから、気まずそうな空気が伝わって来る。



「こっち」



新しい声が聞こえる。
足音は大久保さんと山下さんの分、あと俺とみかのものしか聞こえなかったから、その声の主が一緒に居ることに気付かなかった。だからその「誰か」が突然何もないところから現れたようにしか思えなかった。


でも違うだろう。


「舞苑さん?」

「うん」


簡潔な声だった。足音がひとつ増える。最初から、この人だけ、離れた所で待機してたらしい。


彼が右、左、と指示する通りに歩いてしばらくして、「おつかれさま、ごめんね」とようやく目が解放された。この大久保さんの「ごめんね」には、「俺の不運に巻き込んじゃうかもしれないのに連れまわしてごめんね」の意味が含まれている。いちいち不憫な人だ。


いいですよと答えながら、しぱしぱと目を瞬かせて、見慣れた三人を確認。何の変哲もない空き地で、少し疲れた様子の山下さんと目が合った。


「目隠しされて連れて行かれるから、どこか面白いところに来るのかなと思ったのにー」


「どうせだったら廃墟とか心霊スポットとか、そういう面白そうなとこで解放して欲しかったんですけど」


みかと俺の言葉に、大久保さんと山下さんが微妙な苦笑いを零した。

「あんまりそういう危ない場所に連れて行くと、君らの弟くんたちに俺達が怒られるからさ」














----------
あとがき。(2015.4.18)

リクエスト頂いたので最初はお試しで短めのを。
問題無さそうであれば続けます。




前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ