始まりと始まりの関係

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「……目指す、とは」
「新聞部の幽霊部員なのは知っていますが、報道関係だけでなく、医療関係も嗜んでいるように感じましたが」
「科学の本は読みますよ。趣味で」

「ほう……例えば?」

「……え、あ」


……私の読んでる本や雑誌を言ったところで、この世界にそれは存在するのだろうか。

適当に言ってもこの人、図書館や書店を回って意地でも探し出そうとする気がする。


「薬学とか、植物学とか、あとメカニック関係を」仕方ないのでジャンルで答えた。

「理系寄りなんですね。では貴女、コンピューター・ゲーム等には興味ありますか?」何が荒井さんの興味の導火線に火を点けたのだろうか。あまり深い関わりがあることを知られるなと言ったその口で、荒井さんは饒舌に話しかけてくる。


一年の教室と二年の教室が分かれる階段前で、荒井さんは、「今度友人と同人ソフトを買いに行くのですが、よければどうぞ」と言い残して階段の方へ向かった。……その友人ってもしやアパシーで出てきた赤川なんとかさんですかね。買いに行くゲームって、「誠死ね(新堂さんにあらず)」とか副音声につきそうな名前のゲームですかね。
そう心配したけど、思ったことはやはり口に出さなかった。言ったってこの人にとっては未来の話なんだから何も伝わらない。
溜め息を押し殺しながら教室に入ると、既に次の授業は始まっていて、ひとり体操着姿で入ってきた私はひどく目立った。
誰かが先生に言っておいてくれたのか、お咎めは無かったけど、着替えは後でやれ、と言われ、そのままの服装で私は席に着いた。セーラーとワイシャツの二種類しかないクラスの中、私の体操着姿はいたく目立った。いくら馴染もうとしても馴染めない不恰好さを誇示しているようで、居心地が悪かった。





*****





風間さん、日野さん、新堂さん、福沢さん、荒井さん、細田さん。ついでに神田さん。上原さんと大河内さんはどうだったかな、どっかでゲームに出てきたっけ?覚えてない。


とにかく、一日で、いや半日でこれだけ知っている人間と会うんだから、午後も何人かは会うだろうと予想はしてたんだけども。


「……君は、朝に教室の前にいた一年だね……?どうしたの、旧校舎になにか用かな?」
よりによってこいつかよ、と思ったのは仕方ないと思う。


吉田達夫。『高木ババア』という話のキーキャラだ。


高木ババアの話は、平たく言うと「不幸の手紙」タイプのねずみ講話だ。話を聞いたら、十人に同じ話をしないと高木ババアに殺される。


一話目だったからつい最終盤の画像切り替え機能でがっしょがっしょ画像切り替えて遊んでました。吉田を風間さんにしてみたら結構面白かった。


ゲーム的発言は置いておいて。


「確かに今朝D組に居たのは私ですけど?先輩こそ私に御用ですか。それとも、旧校舎に?」

チクリ大好き吉田達夫はにんまりと私と、私の背後にある旧校舎を、じいっと見比べる。無言なのに、傲慢な態度。

「……君は旧校舎が立ち入り禁止なのを知ってる?知ってるよねえ」
「エーマジデスカシリマセンデシタァー」
「……この件は先生に報告しておくよ。あぁでも、僕の話を聞いてくれたら、言わないであげてもいいかなぁ……」

無視しやがったこんにゃろ。ワカメみたいなくせっ毛しやがって。


「話とは」



もう何だか下手に茶化すよりも、早く話を切り上げた方がいい気がしてきた。



「あ、ああ、高木ババアの話を――」



だめだこれ長いやつだ。




「残念ですが、私その話知ってます」


ゲームでな!!




そういうと、吉田さんの顔が一気に青ざめた。動揺しているのか、眼鏡を掛け直す手が震えている。しかしそうか。高木ババアの話、この人すでに聞いているのか。
新堂さんに高木ババアの話を聞いたにも関わらず、彼は「十人に話す事」というルールを守らず、最終的に殺される。

私は思わず、自分の口元を押さえた。なんだってそんなことをしたのか、我ながら分からない。
ひょっとしたらゲームでは死んでしまった彼に同情したんだろうか。


とっさに手を当てて、そして私は、自分の唇が少し強張っているのに気付いた。緊張しているのだろうか。


……こいつもゲーム内では危険人物だもんな。


リアリストという点では少しだけ共感を覚えないでもない。あそこまで人を見下すような真似はしないけど、私がもしああいう不幸の手紙パターンの話を聞いたら、吉田さんと同じようにあーはいはいという感じで受け流すだろうな、とは思うのだ。

だから少しだけ、同情した。


「確実に人に聞いてもらう方法なら、ありますよ」

「なにっ!?」

「恥ずかしい上手間は掛かりますけど」


構わない、と吉田さんは言った。まるで親に縋る子供の如し。
「作戦その一、放送室に乗り込んで鍵掛けて、校内放送の怪談語りをやらかす。デメリットは下がる内申点と上がる学園中の敵意」

「……放送機材の使い方なんて分からないよ」

「でしょうね。作戦その二、病院の待合室で手持ち無沙汰にしている人に声を掛ける。『待つ場所』では他人が与太話を聞いてくれる確率は格段に上がります。デメリットはマダム達からの冷たい視線と通報される危険性」

「……通報されたら、どうすればいいんだ」


舌打ちが聞こえた気がしたけど、うん気のせいだよな。

吉田さんも私の友人と同じく、大人に叱られることが嫌いなタイプなのかも知れない。


「その場合は補導してくれたお巡りさんに話を聞いて貰いましょう」

「そんな、警察のお世話になるなんて、僕の今後の学校生活はどうなるんだ!」


こいつ惜しむような楽しい学校生活送ってたっけ、と失礼な事を一瞬考えてしまった。


けど、多分この人が言ってるのは内申点とかそういう話だろう。

まあ一概に馬鹿にはできない。三年生の夏だもんね。


「……じゃあ最終手段。ある意味一番プライドが傷つきますし、場合によっちゃお金が掛かります。けど確実に最後まで聞いて貰えるし、相手が高木ババアの話を知ってる確率が低い」

「……どんな方法?」



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