始まりと始まりの関係

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ベッドの上では、口の端から涎を垂らした上原さんが両手で喉を押さえていた。喉や口の周りを自分の爪で引っ掻いてしまっている。
陸にあがった魚のように体を震わせていた。


「上原君、落ち着いてください!手を離して」


荒井さんの指示の言葉も、目でおびえているのでは威力半減だった。あちらには人の言葉を聞く余裕も周りを見る余裕もない。対する私たちは医療知識なんて持っていない学生ふたりだけ。その間も咳と呻き声は続いている。




「あ、荒井さん!保健室の窓全開にして!あと、上原さんに水飲ませて!吐かせちゃ駄目ですよ確か!」

医療知識も、薬品知識も、経験も無い。だけど今は私たちが動くしかなかった。
荒井さんも事の重大さは分かっているのか、文句は言わず迅速に動く。私は椅子にあった学ランのポケットから上原さんの財布を取り出し、廊下に躍り出た。荒井さんに指示を出したものの、私の頭のなかはパニックだ。アンモニアを飲んだ時の対処ってなんだっけ!?大抵の薬品は緑茶で中和できるけどこの場合カテキンは関係ないよなじゃあなんだ!?
牛乳飲ませるとか科学の先生が言ってた気がする!学校の自販に牛乳ってあったか!?この間福沢さんと自販機巡りをした時無かったぞ確か!
じゃあいちごみるくか若しくはカフェオレとかか!?代用できんの!?


とにかく近くの自販機へと廊下を走る私の前を、移動教室帰りの集団が横切る。ああもう急いでるのに!


「すいません通して……っ!」

「あれ?土生さん?」




場に会わないのほほんとした声が私の名を呼ぶ。反射的に声の方を向くと、忘れようもない、ト、じゃない細田さんがにぃっこりと笑って立っていた。移動教室は細田さんのクラスだったらしい。



「荒井君から聞いたよ、仲間になってくれるんだって。嬉しいなあ、これから一緒に活動できるね」



おい福沢さん!あんた以外の殺人クラブ他人のフリ守ってねえぞ!!


思わず心中でツッコミを入れてしまったが、ツッコミどころではない。細田さんどころでもない。



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