始まりと始まりの関係

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「拒否権ね。まああるっちゃあるが、お前、殺されるのと入部するのどっちがいい?」



「先輩モードのテンションでさらっと言わないで下さいよ!なんか却って怖い!」

「じゃあ遠慮なく『殺人クラブ部長』として勧誘させてもらう。五体満足で居たいなら入れ」


声を低くして、『殺人クラブ』の顔を作る。藍は一瞬肩をびくつかせたが、逃げる様子は無かった。

どうする?と笑みを浮かべ(どんなシチュエーションでも怖がる人間を見るのは楽しい)ゆるゆると目線を下げ藍を見る。


「俺としてもお前には入ってほしいんだがな……。土生、一応選択権はお前にあるぞ?選べ」

「………………」


選べ、と言うのは、言葉だけで、実際には道はひとつしかない。

分かっていて聞いているのだが、日野は人間の見せる葛藤や迷いや苦痛を見たくてあえてこう言った。


しばらくして、答えが出たのか、藍が口を開く。


「入るっていっても、私殺すとかそういうの嫌ですよ」

「ん?じゃあ獲物を連れて来たりする仕事を割り当てるか?いいぞそれで」

「いいのッ!?」

「俺が欲しいのはお前の頭だ。うちの部はどうも血の気が多くてな、頭脳要因が欲しかったところだ。まあ普段は恨みのノートの名簿整理と、獲物が決まった時は情報収集をしてくれればいい。報告は作戦決行日の前日までにな」

「結構システム化しっかりしてるんスね……」

「部活だからな」


そう言うと、藍は納得いかないような微妙な顔をした。殺人に吟詩もシステムもないと言いたいのかも知れない。まあ、普通の人間の感覚ではそうなんだろう。日野はエリートとしてプライドを持ちつつも、一方で一般人の仮面を被ってほとんどの時間を過ごしているので藍の言いたいことは予想できた。だが、日野に言わせればルールも条件もない殺人は只の低俗な殺人鬼がすることだ。殺人クラブは違う。生きる価値のない人間を選別し、裁く。れっきとした、誇り高き部活動だ。まあ、獲物の選別は私怨が元になっているが、所詮善悪なんて人間が勝手に決めるものだ。ならば自分たちを正義とし、他者を裁くことにおかしいところなどなにもない。世間一般でいうところのくだらない善悪に、エリートである自分たちが従ってやる道理などどこにもないのだから。

藍は少し迷った後、「分かりました」と頷く。入部成立だ。日野は頷き、部室のドアを思いっきり開け放った。


「よかったなあ風間。意中の女が獲物にならなくて」


ドアに耳を付ける恰好で部室の外に居た風間が、ばつの悪そうな顔をする。教室に鞄を置いて、結局気になって様子を見に来たらしい。


「意中って」
「なあ土生。一番お前を部活に入れたがったのは風間だったんだぞ。火災報知機の仕掛けがすごいだの、短時間で武器を作るなんて見込みがあるだの、まーベタ褒めだった」


じろりと藍が風間を睨んだ。風間がさっと目と逸らす。


「そう怒るな。こいつが最初に言い出さなかったらお前、今でも獲物になってたんだぞ」

「いらん世話です」

「これは手厳しい。前途多難だな、風間」


そうだねえと同意するように頷く風間を見てこっそり日野は溜め息をついた。同意はしても風間は本気ではない。ちょっと気に入っただけで懇意になって、その内忘れてを繰り返している奴なのだ。それをクラブ内でやられると恐ろしいことになるので遠慮して欲しいのが本音だ。そう思い、日野は藍の様子を伺うのだが、藍は別段動揺した様子もなく斜に構えているだけだった。「ベタ褒めねえ。そういえば風間さん、日野さんが居ないところでも日野さんのこと褒めてましたよ」


途端に、今まで飄々としていた風間が慌てて藍の口を塞ごうとする。女を褒めていたのがばれるのと、男の同級生を褒めていたのがばれるのでは話が違うらしい。




「こんな曲者揃いの部活を纏めてるのには敬意?尊敬?してるとか言ってました」
「曖昧な記憶を言い切らないで!君が言い切ったら、ほら、まずいだろ!?」


風間の勢いに押されたか、藍が黙る。不満げな顔だったが、公開処刑まがいのことをされた風間はもっとひどい顔だった。からかっても良かったのだが、もう授業が始まる。日野は喉の奥で笑いながら、部室前でじゃれている二人を外に出るように促した。
殺人クラブの話題だけはやめさせるため、しっ、と唇に指を添える。口元を押さえる二人を見て、よしと頷いたら、二人は揃って気まずそうに目を逸らした。


「あまりに失態が続くと」



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