始まりと始まりの関係

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「は、はっきりとは言ってないし……日野さんが勝手に記憶捏造しただけですしおすし……」
「だから、その記憶も『あんたが言ったから』補正がかかったんでしょうよ。さっき言われたんでしょ、世界があんたに合わせて違和感の無いように変わるって」


もはやぐぅの音も出なかった。言われてしまえばとても寝覚めが悪い。期限は一週間と言われていたから、すぐに風間さんが殺されることはないだろうけど、人の命が自分の行動に掛かっていると思うとなんとなくやりきれなかった。

悲しきかな、私はここで人を見捨てられる程、冷徹な人間に育てられていないのだ。

私は意を決して準備室の中に入った。


「あ、中に私の生徒手帳落ちてない?どっか行っちゃった」

「知るか!」


苛立ちを含んだ怒声と共に、勢いよくドアを閉めた。ドアに背を向け、ゆっくり中央まで歩いて、振り返る。……内開き。鳴神学園だ。

そっとドアを開くと、正面の机に、不機嫌そうな風間さんが座っていた。「……お帰り」むすっとした顔で、風間さんは手の中にある針金をくるくると回す。そういえばドアに鍵が掛かってなかった。風間さん針金で鍵開けたのか。

「ただいま、そしてさようなら」すーっとドアを閉めようとすると、風間さんの長い足がドアの間に滑り込んできた。ガツッと反動でドアが開き、風間さんの手が伸びてきて私の手を掴み、引き摺り出す。


「送るよ。こっちの家に」随分紳士的な言葉だが、要は『帰さねえぞてめえ』だ。だって風間さんこめかみに青筋立ってらっしゃるもの。「こっちの」をすげえ強調して言ってらしたもの。「頼むから大人しくしててよ。断ろうが受けようが、その後で帰っちゃえばいいじゃない」

「いやいや私学校あるんで!」


「こっちで授業受ければいいよ。教科書こっちだし。……ほらもう、帰りにラーメン奢ってあげるから。おいで」


「いやだああああああああああああああああ!!」



この鳴神学園というものは、どこまでも生徒を危険に晒す構造になっているようで、いくら叫んでも見回りの先生や他の生徒が様子を見に来ることはなかった。

くそ、仕事しろ警備員に見回り教員!


いくら悪態をついても現状が変わることはない。私は風間さんに引きずられるまま、鳴神学園を後にした。










*****










今朝のニュースは、どこかの犯罪者が無事捕まったという内容だった。
なんでも、田舎の民家に逃げ込んだものの、そこに居た女の子の大声で眩暈を起こして情けなく捕まったのだとか。

数年前アメリカのコンビニ強盗が似たような流れで逮捕されてたよな。
懐かしく思いながら朝食を頬張っていると、玄関のチャイムが鳴る音がした。


「こんな時間に訪ねてくるご近所さんはいないから、昨日送ってくれた人じゃない?朝迎えに来るって言ってたし、藍、出てあげなさいよ、それか早く食べて」



私はその事実に現実味が持てなかったんだろう、「やれやれ」と言った後で、「本当に迎えに来たんだ」と、まるで自分の肩にほこりが乗っているのを指摘されたときのような、そんなテンションの返事しかできなかった。
私はぬるい牛乳を飲みほしてから、パンを片手に玄関に向かった。

「ピッキングしやがりましたね」鍵とドアはすでに開いていた。


「行儀悪いよ」行儀どころか手癖も性格もよろしくないくせして。



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