始まりと始まりの関係

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「ちょっと待って」


流石、友人は理解が早かった。教科書を美術室の机に置いて、さっと段ボールを持ち上げ、準備室に向かっていく。数秒立たない内に出てきて、何も問題ないと首を振ってきたけど、私の話を信じた上でその度胸って、心臓に毛でも生えてるんじゃないだろうか。


「今日の放課後どうする?部室来る?」


教室に着き、友人にそう問いかけられたところで、美術室に筆箱(二代目)を忘れたのに気付いた。「少し遅くなるけど、行く」

放課後になると鍵が閉まってしまうので、HRが終わるとすぐに美術室に向かった。机の上にある筆箱を鞄に突っ込んで、一安心と息を吐く。


―――ドンッ!!


さあ用事は終わり、と部室へ向かおうとする私の背後で、けたたましい音が鳴る。思わず振り向く。



―――ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン



音は、準備室から聞こえてくる。嫌な記憶が蘇った私だったが、すぐにあることに気付いた。今は美術準備室として使われているあそこは、数日前まで『開かずの美術室』だったのだ。もし、人が中に居る時に何かの拍子でまたドアが開かなくなってしまったのだとしたら……白骨死体の噂が噂じゃなくなる。
私は準備室に駆け寄り、ドアを掴んだ。ぐっとノブを回し、開ける。


その瞬間、中から伸びてきた手に腕を掴まれる。「ぎゃっ」と色気のない声が出て、私は準備室の床に転がった。長身の影が、片手を挙げて挨拶した。「やあ、久しぶり」


挙げた方とは逆の手に握られたナイフを回し、風間望が私を見下ろす。驚きと混乱で声が出なかった。


「どうしたの、金魚みたいに口開けて……あ、これか」


さらりと失礼な事を言い放った風間さんはナイフを傍の机に置き、大丈夫だよ、と手を振って見せた。

そして、座り込んだままの私に近付いて、手を差し出してくる。


「いやあ、一回で成功するなんて僕ってやっぱり才能があるんだなあ。ほら立ちなさいよ、ずっとそんなとこに座ってると汚いでしょうが」

「え、え、え?」
私が差し出された手を取らないでいると、風間さんは私の両脇に手を差し込み、子供を立たせるようにして私の体を持ち上げた。ちょちょちょちょ意外と力持ちだなこの人!


「かかかかざ、風間さんこれはどういう状況なんでしょうか何故風間さんがここに居るんでしょうか」

「何故もなにも、ここは鳴神学園の美術室だから、ねえ」


そう言って風間さんは一度閉じた準備室の扉を開けて見せる。


石膏像や絵がばらばらと置かれた、記憶に新しい、鳴神学園の美術室が、そこにあった。

「言ったでしょう、僕は狭間の部屋へ行けるって。この間土生さんが一人で異世界に行ってしまったからね、今度は道具を揃えて、君を呼び戻したって訳さ」

準備室の机を見ると、確かに、さっきのナイフだけでなく、銀色の杯、どこから仕入れてきたのか分からないが外国のコインが並べられている。




「よび……もどした?」
じゃあ何か、私はこのアホにようやく逃げ出してきたこっちの世界にまた連れて来られたのか!!


この間の事がきっかけでゲームをやり直し、友人からアパシーだの特別編だのをちょっと借りて知った衝撃の事実を思い出す。

――風間望の正体=地底人に宇宙人、こっくりさんでぬらりひょんで守護霊で背後霊で霊能力者で、殺人クラブで天使で悪魔、生霊で謎オヤジでクローン一家、噂によると月の住人。


この風間さんは殺クラだから人間だろうが、ここまで自由万歳なスペックを持つこいつならハッタリでなくマジでやりかねない。


「なななななにしてくれとんじゃああこのバ風間――――――――――――――!!」

「それやめてくれない」

「この際だからぶっちゃけますけど!私は元々こっちの世界の人間じゃないんですよ!この三日間元の世界に帰って平穏無事に暮らしてたんですよ!」

「うん、知ってる」

「……は?」

「これ」


風間さんは胸ポケットから一枚の十円玉を取り出す。製造年は平成21年。この間風間さんにパクられたやつか!
「つまり君は、狭間の部屋を通ってきた、未来人だ!」


ちょっと違うけどゲーム云々を説明するのは面倒だから黙っておいた。

私達は準備室から出た。

何故か放課後だというのに美術部員の姿が見当たらなかったが、風間さんは気にせず適当な机に座った。

三日前とは違い、今は敵同士ではない。数日前までは命を掛けたやりとりをしていた二人が並んで座るなんて、変なの。

そう思いながら私はじっと彼を見てみるとある事に気がついた。


「…………左頬…………腫れてる……?風間さん、殴られたんですか?」

「少し違うね、まあ近いとは言っておこう」

「――。でも……、そうだ、ちょっと待ってください。この前私が帰った後どうなったんですか」

「お前が逃がしたって怒られたさ。こんな風にね」

ちょいちょいと風間さんは腫れた頬を指す。

「やっぱ殴られたんじゃないですか!」

「ちゃんとやり返したよ!一方的にやられたわけじゃないの!」


だから殴られたんだろうがよ。男の人のこの変なプライド意味分からない。


「……でさあ、君はこっちでは登校拒否ってことになってる。いなかった状態に戻ってないんだよね。だから僕が連れてこいって言われちゃって。けどいくら調べても当然だけど君の住所見つからないしさあ、しょうがないからまた来てもらったの」

私は開いた口が塞がらなかった。この人完全な保身で私をこっちに連れてきたのか。っていうか待って。待って。連れて来い、ってことは……


「また私殺クラにリンチされるんですか」

「あれ、うちが殺人クラブだってことまで知ってるんだ。君の時代まで殺人クラブ続いてる?」

「私鳴神の生徒じゃありません。ねえ、あの、なんで私呼ばれてるんです?」

「そんなに怯えないでよ。勧誘だよ、勧誘。殺人クラブに入らないかっていう。小手先は器用だし、とっさの機転もいい。そこそこ運動神経もいいね!獲物にしておくのには勿体無い!ってことで、勧誘することに決定したんだ」

「なにフェイスブックみたいなノリで勧誘決定してんだ殺クラ」

「まだターゲットにならないだけいいと思いなよ」

「アンタが呼ばなきゃターゲットだろうがなんだろうが私に害は無かったんですよボケェ!!」

「だって君をこの一週間中に連れて来れなかったら、僕殺されちゃうもの。明日でいいから日野様の所に一緒に来てよ。断るかどうかは君に任せるから」

「明日でいいなら私一回あっちの世界に帰りたいんですけど」

「戻ってこないかもしれないからダメ」

「だって!こっちの世界に居る私は学校来てなかったんでしょ!?登校拒否してたんでしょ!?それなのに制服(冬服)で帰ったらこっちの世界の家族が怪しむでしょー!?」




言い募るが、風間さんはきょとんと私を見返した。「『こっちの世界の私』?」









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あとがき。(2014.7.12)

夢主は友人にVNVを借りてプレイしたので、細田の話の「異世界の自分と、自分が入れ替わる」現象が起こってると思ってる。




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