始まりと始まりの関係

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無理か。無理だ。
ぱたぱたと一人で手を振って妄想に近い馬鹿な希望を振り払う。


じゃあせめて病院に行けないか?駄目だ、この世界のどこに病院があるか分からない。だからといって、日野さんを探してるヒマはない。

混乱する私に、天啓が降りてきた。さっき仮面の少女は「扉は開く」と言っていた。それってもしかして、元の世界に帰れるという事か?向こうに行ってしまえば問題ない。気兼ねなく学校を出て、病院に行けばいい。夜中だけど必死な顔で異物吸引お願いしますとでも言えば応急処置くらいはして貰えるだろう。

どうせ時間も余裕もないんだ。試す価値はある。向こうの世界への扉となる美術準備室には、確か風間さんが居たはずだが、彼は忍耐強いタイプではないから移動してくれているかもしれない。……そうだ!盗聴器!この世界に来る前に準備室に仕掛けていた盗聴器がある!それで確かめよう!私は慌てて受信機を取り出し、イヤホンを装着した。




『全く、おまえが余計な事をしゃべったせいで、計画が総崩れになったな。それなりの処置を、とらせてもらう』

『待ってくれ、何の事だか――』



この声は日野さんと風間さん。一瞬、岩下さんの時のようにミスリードを誘っているのかと思った。いや、でも、流石に集会が始まる前に仕掛けた分の盗聴器まで勘付かれたとは考えにくい。多分ない。
私は、イヤホンからこぼれてくる音に集中する。どうやら、風間さんが、失言したことを責められているらしい。なるほど、私がさっき風間さんから聞いたと言ったからか。

私は、今、福沢さんの横で座り込んでいる。ここまで校舎が古いとトイレでもその辺の床でも汚さは大して変わらない。


『俺ははっきりと土生から聞いたぞ。風間が殺人クラブのことを話したと』

『う、嘘だ!俺は言ってない!』

う、嘘だ!私も言ってない!!
日野さんアンタそれ勝手に記憶捏造しただろ!?

『新堂、押さえろ』

『おい、何するんだ、やめ――』


そこから先は聞いてなかった。イヤホンを鞄に突っ込んで、カメラを片手にトイレを飛び出す。
新堂さんの名前も出たってことは、準備室には殺人クラブメンバー、それも腕のたつ男子が三人居るということだ。それどころか、岩下さんや荒井さんが彼らに合流する可能性だって、高い。彼らがあのまま階段で待機するとは思えないし、それならリーダーの元に一度集まろうとするだろうから。


私の中に一瞬迷いが生まれたが、それに気付かないふりをして駆ける足を速める。……どっちにしろ美術室に行くか日野さんに交渉してみるか以外助かる道は無いんだ!

当たって砕けて爆発する勢いで突撃してやる!





*****





おしゃべりには、これがお似合いだ。

ああそうだ、お前の事だよ。


美術準備室という狭い空間の中。カプセルを吐き出そうと咳き込む風間を見下ろして、日野はにやりと笑う。





「俺達は風間より早く土生を殺せばいいんだな?」


確認するようにそう言って、新堂が準備室から出ていこうとする。彼に風間を嫌悪する様子はない。ただ日野が提案したゲームの追加ルールが気に入ったから乗っただけだろう。




待て――風間がそう叫ぼうとした瞬間、新堂の体が吹っ飛んだ。「いてえ!?」


突如開かれた準備室のドアの先に立っていたのは土生藍。たった今ドアで吹き飛ばしてしまった新堂を見て反射的に謝罪の言葉を口にしていた。


「い、今これ、どういう状況ですか」


「風間にもお前と同じ毒を飲ませた。お前を殺すことができたら解毒剤をやると言ってな」


「そうだ。これでそのゲームも終わるけどな」


ドアの前に尻餅をついていた新堂から声が飛んだ。風間から見ても凶悪な顔で舌なめずりをしていた。




獲物は顔を赤くしていう。


「ひ、人を変なゲームに巻き込まないで下さい!」


今更過ぎる主張だ。

けたけたと日野は笑う。暗いので見えにくいが、新堂も口の端を上げている。

「まァ諦めろよ。この状況じゃ逃げられねえだろ」


藍が怯えて縮みあがった。新堂が藍に足払いを掛ける。



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