始まりと始まりの関係

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それにしても、と風間は福沢を横目で見ながらこっそりと溜息を吐いた。福沢や他の語り部達のように語りだけで怖い話を盛り上げられたらどんなにいいか、とたまに思う。羨望ではない。単に小道具の準備が面倒臭い日があるのだ。その時はその時でふざけた話で突き通して、後は次の語り部にパスするのだが。しかし。





「……鳥葬って、見た目的にもグロいんだよねえ……やだなあ……」


恐がりつつも現実的な感想を述べる土生藍は、くだらない話では納得しないだろうな、と風間は思った。さっき荒井に見せた押しの強さをまた発揮されたら却って面倒臭い。



「そっか、鳥葬ねえ。君グロ系も駄目なの?」

「実際あったことはちょっと……。(一応ゲームだけど……。)映画とかは平気なんで結構見るんですけど」

「じゃあもしかしたらあら、――っとヤバイ。じゃなくて。えーと、『素晴らしき哉、人生』って映画知ってる?ドラマじゃないよ。映画の方」

「え?」



荒井君と映画の話で語り合えるかもね――と言いかけて、ギリギリのところで誤魔化すことに成功した。

危ないところだった。土生藍になぜ荒井の趣味を知っているのかと突っ込まれかねなかった。突っ込まれたとしても、誤魔化すのは容易い事だったのだが、問題は他の殺人クラブだ。

殺人クラブは、くだらないギャグを言っただの、通行の邪魔をしただの、そういう理由で死刑判決を言い渡すような人間の集まりだ。ふざけた語り口は黙認して貰っても、こういうミスをやりすぎると自分が死刑判決を言い渡されかねない。そんなのは真っ平ごめんだ。


「映画もドラマも、あまり古いのはチェックしてないんですよ」
「ん?ドラマは二年くらい前にやってたじゃない」
「!?……あはは、ソウデスカシリマセンデシタ」


やたら狼狽しているが、なにか彼女にとってまずい事でも言っただろうか。気になりはしたが、たかが映画とドラマの話題でそこまで追求することでもないだろうと思ったのでその場は流すことにした。


「その映画、人生に絶望した主人公が『自分の生まれていない世界』を見るって内容なんだけど――」

「あの、ちょっと待ってください。……風間さん、もしかしてコレ五話目に突入してます?」

「してるけど?」







間。







「うおおおおおおおおおおおおおおお何勝手に進めとんじゃあバかざま―――――!?」

「初対面の先輩にとんでもなく失礼だね君」

「ちょっと!ちょっとちょっと!!私先に新堂さんに話して頂こうとしてたんですけどぉ!?」

「いいじゃない、順番なんてどっちでも……ねえそれより今の撤回して欲しいんだけど」

「貴方アホの風間さんでしょう!あの風間さんでしょう!風間さんじゃないですか!最後にして下さい!」

「うん僕の名前は間違いなく風間望だけどね?ちょっと君、怒るよ」


風間がむくれている内に藍はガタンと椅子から立ち上がった。


「私にとっては順番は超重要な問題なんすよ!」


結局、風間も席を立って、藍の腕を掴んで、部室を出て美術室に向かった。さっさと話を終わらせたかっただけなのだが、廊下で藍が逃げ出そうとするものだから美術室に着くまで時間がかかってしまった。


部活の時間が短くなってしまう。


風間は前口上で雰囲気を出すのは諦めて、美術準備室の前に立ち、いきなり本題の話を切り出した。






「じゃ、話そうか。『狭間の部屋』の話」





*****





私がアホ、もとい風間さんのことを思いだしたのは、荒井さんとの言い合いを風間さんが止めに入ってくれた時のことである。なんかの条件で、荒井さんがいい加減な話をする風間さんにキレた時があったんだよな。その時にテレビに向かって「いいから謝れよばかざま」と当時小学生だった私は口汚く呟いてた。嫌なクソガキだった。


そのいい加減代表風間望は美術準備室の前で大業に手を振っていう。


「こういう怖い話の場って神聖なものなんだ」


怖い話を始めるというよりは、舞台役者が劇の導入を語るような様子に、私はぼうっと風間さんの話を聞く。


「ひとつの部屋に選ばれたやつだけで集まって、みんなで集中して空気をつくる。今回は正式な手順は踏めなかったけど、本当は金のメダルに白銀か金でできた杯、あとは魂を守るために刃物を用意しなくちゃいけない。タロットカードの【魔術師】は知っているかい?彼も杯に剣、メダルを用意しているだろう?あれは異界への扉を開こうとする男の絵という説がある。そう、丁度今みたいにね」


「今みたいにって……」

「これから僕は異界への扉を開くんだ。君にも見せてあげるよ、子猫ちゃん」
「……」
ちょっとだけ真剣に聞いてたのに今ので全部吹っ飛んだ。流石いい加減代表、子猫って二人称マジで使う奴いたんだね。トリビア。全く使えない豆知識ならぬ全く使えない男がここに居る。


「刃物は彫刻刀でいいか。水はそこの水道の……ああ、メダルがないな。土生さん、コイン持ってない?」


コインと言われても生徒手帳に入れている電話用の十円玉くらいしかない。それでもいいのかと聞くと、あっさりと構わない、という答えが返ってきた。あんたさっき金のメダルって言ったやんけ。銅だぞこれ。オリンピックならツーランク下だぞ。胡散臭げに見つめる私に気付かないのか、風間さんはハレルヤとかなんとか小声で歌を口ずさみながら、せかせかと机や彫刻刀を準備して準備室の前に並べている。


「狭間の部屋っていうのはね、どこでもない場所のことを指すんだ。世界と世界の間にあるから、狭間。だから一度、狭間の部屋へ行くと、狭間の部屋を通って別の世界に行ける。その先は動物が支配する国だったり、鏡みたいにすべてが逆に見える世界だったり、色々あるね。大抵の人間は、狭間の部屋を通った事にも気付かずに他の世界に行ってしまう。まあ僕みたいに修行を積んだ霊能力者なら、一度狭間の部屋に行って、戻ってくることもできるけどね」


「待ってください、その狭間の部屋がここに通じてるんですか」

「その通りだよ」


風間さんの声がすこしやわらかになる。興味を持たれて嬉しかったんだろう。




「風間さん、あなたは別の世界に行ってしまった人のことを知ってるんですか」

「知ってる。沢山」


そう言って風間さんはぺらぺらとこの準備室に入って行方不明になった人物の名前を挙げていってくれるが、私は一人たりとも分からない。当然だ、風間さんの話が本当だとしたら、私はその狭間の部屋を超えてやってきた別の世界の住人だ。この学校のことなど分からない。そう、風間さんの話が本当だとしたら。













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あとがき。(2013.12.30)


ばらばら好き勝手してるように見える殺クラですが、一応ほんのりと連携はとってます。


岩下→校内に人が残っていないか確認するため、さりげなく校内を回るよう誘導。この時点ではまだ校内に人が残っていた模様。

細田→「期待した目」は、「早く話したいなあ」でなく「僕時間調整下手だから早めに終わらせたいなあ」の感情。

荒井→七不思議の会が早く終わりそうだと察知。時間稼ぎ&校内に残っている人がいないか確認のため屋上へ

福沢→校内に人が残ってないか確認のためジュースを口実に校内を回ろうとする。風間の「コーラ飲みたい」は我儘でなく福沢が校内をくまなくチェックするためのアシスト。


―ここで帰ってきた福沢がこっそり『校内に人は残っていない』ことを合図―


風間→もう『部活』を始めてオッケーの合図が出たので、あまり夢主の無礼に突っ込まず、さっさと『部活』を開始しようとしてる。夢主だけを美術室に連れて行ったのはもう全員で校内チェックの必要が無くなったから。

新堂→自分の持ちネタより風間の方が短く話を纏められるのが分かっている。だから勝手に風間が話し出しても止めようとしていない。





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