始まりと始まりの関係
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『学校であった怖い話』!
私は画面ごしに何度か見た語り部たちの顔を思い出そうとしたが、なんせ昔のゲームの事だ。覚えてない。けど、間違いない、このシチュエーションはあのゲームだ。
待って、ここがあのゲームの世界だとしよう。このまま七不思議を聞くとしよう。……あのゲーム、死亡エンドとか、無かったっけ。
私の背筋を冷たい汗が流れる。まだゲームの内容を覚えていれば対処ができたんだろうけど、あのゲームをやったのは遙か昔の話だ。誰がどういう順番で何を話したかとか、細かいところは覚えてない。
新堂さんは怪訝そうに眉を顰めた。
「なんだよ。人の名前を聞くなり叫びやがって」
「あ、すいません、友人が新堂さんのことかっこいいって言ってたもんで」
今度は新堂さんに皆の視線が集まる。新堂さんは不意を突かれたのか、言葉を詰まらせていた。……嘘じゃないもん。友人がそう叫んでいたのが頭に残っていたから思い出したんだ。
なんだか緩んだ空気が部室を包んだが、私はそれどころではない。
「自己紹介始めていい?」
どうぞ、と言いながら私はゲームの事を思いだそうと必死だった。そうだ、一人、アホな話しかしない人いなかったか?その人を最後に回せば無事に終わるんじゃないか?そんな事を考えている内に、自己紹介も終了する。最後に自己紹介を終えた荒井さんが、静かに私を見ていた。
「――来ませんね」
自己紹介が終わっても七人目は来ない。うん知ってる。
「始めちゃいますか……」
「そうですか。――では、誰の話を聞きますか?」
語り部たちを眺めて、安全そうな人物を探す。やはり誰がどんな話をしたのか覚えてない。私の事だ、ゲームをやってる時も読み飛ばしながらやっていたんだろう。仕方ない、とにかくアホの人が男子だったのは確実なんだから、女子の話を先に聞いてしまおう。
「え、えと、じゃあ岩下さんお願いできますか」
「あら、私?」
妖艶な笑みを浮かべたその人は、笑っているのにどこか冷え冷えする声でじゃあ、と話を始めた。
「それじゃあ、私が一話目を話しましょうか。さっそくだけど、この学校にはね、七不思議なんてものは存在しないのよ。だって、七不思議どころじゃすまないんですもの。なんたって、学校中が呪われてるんですからね」
「そっスね……」
今朝身を持って体験したところです。むしろ下手すりゃ現在進行形で私自身が七不思議の一つです。『いつの間にか増えているクラスメート』とか私の設定で話作ったらなかなか怖いんじゃないか。
「一年E組にいた内山浩太って男子のことを知ってるかしら。あなた、一年だったわよね。確かE組でしょ?」
「え?」
「ああ、ごめんなさい、日野君からそう聞いていたものだから」
あ、いやクラスを知ってたことに驚いてるわけでなくて。私はE組ではないのだ。今日連れて行かれた教室のことなので絶対と言いきれないのが残念だが。岩下さんが私の答えを待っている。でも私は内山君とか言われても分からない。
仮に私がE組だったとしても答えられなかったと思う。私が今日覚えた名前と言ったら日野先輩とクラスメートのハロー君(……コレ渾名だろうけど。覚えやすかったんだもん)、あと語り部の皆さんたちだけだ。
そのうちに先輩方でも、私の動揺に気付いたようだった。最初に話しかけてきたのは、荒井さんの隣に座っているちょっと太めな男子だった。私の名を呼ぶと困った顔でいう。
「あの、どうかしたのかな」
私は引きつった笑顔を作り、汗をかいた男子の問いに正直に、クラスが違います、と答えた。なぜ岩下さんに直接言わないかって?この人イエスオアノーを求めながら、自分の望まない答えは切り捨ててきそうな雰囲気を醸し出してるからだよ!一言でいえば怖いんだよ!美人苦手!
「あら……?」
細田さんというワンクッションを経たお陰か、岩下さんは不思議そうに首を傾げるだけで頷いてくれた。
「おかしいわね、確かにE組と聞いたからこの話を用意したのだけど。そう、そう。違うなら仕方ないわね。じゃあ別の、掲示版の話でもしましょうか……」
岩下さんは至極残念そうな声で、この学校にあるという古ぼけた掲示板の話をしてくれた。掲示板のことも名前も知らないと答えると、じゃあ折角だから写真を取りに行きましょうと岩下さんが席を立った。
「カメラを持ってきて」
「はい、ええと……」
部室の端に、やたら立派なカメラが置いてあるのは気付いていたが、壊したりすると怖い。自前の使い捨てカメラなら持ってるけど、それでいいかな。
お待たせしました、と言って部室の入り口で待っている語り部たちの所に駆け寄ると、ひとつ頷いて岩下さんが部室のドアを開ける。その時岩下さんが口のなかでつぶやいた言葉を、私は聞いてしまった。
「『本当に』E組ではないのよね。――嘘ではないわよね」
独り言だったので私は返答を返さなかったけど、ここで私はこの女性が「あの」岩下さんだと気付いた。
……ここここここ、この人桜のお話でポーズ押したら襲ってきた人や……!システムジャックの女王(土生命名)や……ッ!!カッター持って襲ってくる人じゃないですかー!やだー!!
それにしても掲示板の話なんてゲームの中にあったっけ、と思いながら、私は岩下さんに付いて掲示板の写真を取りに行ったのだった。
*****
「いい写真が撮れて良かったわね。さあ、次は誰の話を聞くのかしら?」
掲示板の所から戻るなり、岩下さんは私に向かってそう言った。自己紹介も七不思議も岩下さんから始めちゃったから、このまま流れで時計回りの話し方になったらどうしようと心配していたけど、岩下さんがそう言ってくれて助かった。だってこの荒井さんって人、トリに持ってきたら確実にガチの怖い話をしてきそうだ。あくまで私の目的はアホの人に最後の話をさせ、無事に集会を終わらせること。言い方は酷いが私の命はそのアホに掛かっている。アホに掛かった命ってなんか悲しいな。己の命の価値に物悲しさを感じながら、ぐるりとまわりを見回すと、細田さんと目が合った。アホの人は男子の筈だったから、なるべく男子は先に持って来たくなかったんだけど、目が合った細田さんがめっちゃ期待した目でこっちを見てる。う、さっき対岩下さんのワンクッションになって頂いたしなあ……
「えーと、ちなみに細田さん、どんなお話をご用意されてます?」
「僕?僕はねえ、魂を喰らう魔のトイレっていう……」
「あっそうですかトイレの人でしたか!じゃあお願いします細田さん」
細田さんの表情は会が始まった時とは一変していた。鼻息荒く目を輝かせている。上気した顔の赤さが、部室に鮮やかだった。姿勢よく座っていた椅子から少し身を乗り出している。政治家が演説を始める時の様だ。
「土生さんもトイレが好きなの?トイレの話って言っても、女の子って普通嫌な顔するでしょ」
野郎でも大抵嫌な顔すると思うけどね!怪談話ならともかくそんな嬉しそうな顔でトイレの話されちゃね!けど私は今正直嬉しいです!アホの人じゃなかった!
「トイレの怖い話なら好きですよ。怖い話なら」
「そうかあ、君もトイレ仲間かあ。ねえ土生さん、良かったら友達になってくれないかなあ」
「友達は構いませんけど、わざわざ強調して二回言った大事な事をスルーしないで頂けませんか」
「わあ嬉しい!僕太ってるし、トイレが好きだって言うと変な顔されちゃって皆友達になってくれないんだよ」
「ねえ細田さん、人の話聞きましょう細田さん。私別にトイレ自体は好きじゃないですからね?」
「話さないんですか」
トイレが好きか否かで細田さんと掛け合いをしていると、焦れてきたのか隣に座る荒井さんに鋭く突っ込まれた。この場で一番突っ込みそうにない人に突っ込まれた。
「「……ごめんなさい」」
細田さんと一緒に他の語り部たちに謝ってから、では、と場を仕切り直した。
*****
――数分前。
「気の所為じゃないかな」
掲示板から部室へ戻る時、岩下だけに聞こえるよう、囁き声で福沢は言った。
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あとがき。(2013.11.3)
夢主は一年だけど坂上君と同じクラスではない模様。