始まりと始まりの関係

□3
1ページ/1ページ



次々に目の前の人の情報が頭に流れ込んでくる。記憶はないのに情報だけが流れ込んでくるのはとても不思議な感じだった。あとどうでもいいけど最後の情報いらない。超いらない。なんだおしるこって。


私の中には確かに友人と心霊研究部で過ごした半年間の記憶がある。あとついでに昨日コート着てた記憶もある。そうだ昨日までは確かに冬だった。校舎だってもっと小さかったし生徒もこんなに多くない。昨日見た美術室だって、よく思い出してみればところどころが私の知ってる美術室と違ってた。増村先生なんて人も知らない。うちの高校では美術は先生じゃなくて講師の人が教えてた。





「せせせせせ先輩先輩日野先輩!どうしようここは一体どこですか!」

「は?鳴神学園だろ」


一年教室から担任がやってきたのは、十五分後で、私は大混乱になった。

担任だと名乗る男の顔に覚えは無かったし(でもやはり名前を呼ばれた瞬間、担任の名前も顔も思い出した)、一年教室は一階だと言うし(私の高校では一年は三階だった!)、そもそもここが私の通っていた高校じゃないならなぜこの人たちは私の事を知っているのかという新たな疑問が出てきたし。




もしや学校ぐるみのドッキリかと思った。普通そう思うに決まっている。だって、持ってきていたスマホの画面のなかには、元の高校の友人たちと笑っている私の画像がある。もっとも私自身のスマホだから、私が映った画像なんて数枚ほどしかないのだけど。画像が残ってるってことは、私の頭がおかしくなった、なんてことはない。と、思う。

しかし、ドッキリだとすると、腑に落ちない事がある。名前を呼ばれた瞬間に相手の基本情報が入ってくるあの現象だ。別に心が読めるとかそういうものじゃないけど。本当に、元々知っていた事を思い出した時みたいにすっと頭の中に入って来るのだ。


「あーもー、わけわからーんっ!!」


思いっきり叫ぶと、教壇からチョークが飛んできた。





*****





とある場所のある部屋で、至極楽しそうな声が響く。
「いよいよ今日だ。存分に楽しんでくれ」
部屋に集まった面々は、それぞれ特徴的な笑みを浮かべ、この場のリーダーである「部長」の声を聞く。
内一人、目付き鋭い男子生徒が、確認するような口調で「部長」の名を呼んだ。





「日野。獲物に、時間の変更の件は伝えたのか?」

「伝えた。まあ、うわの空で聞いていたようだから、後でちゃんと聞いていたか念を押しに行くがな」


今日の集会が終わる時のこと。日野たちは泣き叫ぶ声が響くなかで、ひとつの命が終わる瞬間に笑みを浮かべるだろう。夜明けの空を雲が走り、そこには小鳥のさえずりでも聞こえているといい。

自分や自分を崇める人間以外の愚かな負け犬には、そういう愚鈍な風景がお似合いだ。


「ねえ……」


ぽつりと、静かな声が日野の思考を遮る。悦に入っている時に思考の邪魔をされるのは好きではないが、こういう時に声を掛けることのない彼女が口を開いたものだから、驚きの方が勝って怒りが湧いてこなかった。


「なんだ、岩下」

「今回の獲物は土生藍さん、だったかしら……。おかしいわね。前に聞いた時は男子を獲物にすると聞いていたと思うのだけど」

「記憶違いだろう。計画を変更した覚えはないぞ」


日野に続き、他のメンバーもこくりと頷きを返す。皆、聞いていた獲物と違うと騒ぐ人物はいなかった。



一人を除いては。




「岩下さんもそう思うかい?僕も実は、なんか違和感を感じてたんだ」


風間望。よく言えば周りに流されない、悪く言えば空気を読まないその男は、獲物の写った写真を不思議そうに眺めながら首を傾げていた。


「この間、今回は女の子じゃないのかと思ってがっかりした覚えがあるんだよねえ……」


未練がましく呟く風間の独り言に、荒井が反応する。


「……貴方、獲物をいちいちそんな目で見ているんですか?」




おそらく、本人に挑発する意思はない。自分の価値観と違う、異性として獲物を見る姿勢に、純粋に驚いての言葉だろう。だが、いかんせん口調と言葉選びに可愛げがない。おまけに、今回は風間だけが対象ではない。少し離れた位置に座っていた岩下が、今日一番の微笑みを湛えて荒井に視線を送った。




あ、やばいこれ人死にが出る。




部屋に居るほとんどの人物の心情が一致したところで、福沢が軽く椅子を引いた。いつでも逃げ出せる準備だろう。日野は溜息を押し殺し、部活のメンバーの顔を見た。細田は言うまでも無く困ったような、怯えたような顔で日野を見ていたし、新堂は我関せずといった様子で、しかし絶対に岩下と目を合わさないよう窓の外に目をやっている。荒井は相変わらず陰気な様子でじっと風間の反応を待っており、元々この空気になる原因を作った風間は、なぜ突っかかられたのかが分からずきょとんとした顔だった。ただただ岩下の周りの温度ばかりが下がっている。全く。我の強い問題児ばかりをクラスに抱えた教師の様な気持ちで、日野は溜め息を漏らした。せめてもう一人、落ち着いて場の空気を読める人間が欲しいが、このメンバーにそれは望めない。
「……風間、岩下、はっきり聞いておく。お前らは、俺が無断で獲物の変更を行った、と言いたいのか?」



確認と、この空気を打ち破る意味を込めて、日野はそう言葉を発した。


「……そういうわけじゃないけどさ」

「ただ違和感を感じたから報告したのよ。……問題あるかしら?」

「いや。誰も獲物に不満がないなら部会を閉じるぞ。この話は終わりだ」



話と共に場の空気に終止符を打って、会を閉じる。昼休み終了のチャイムが響くころには、その部屋には誰もいなくなっていた。





*****





「――ねえ、あの、ちょっといい?」



私にとっては顔も名前も分からないクラスメートは陽気な笑い声をあげた。

「何急に改まってるの。藍。あ、そうそう、今日の放課後、近くの男子校の人と合コンがあるんだけど、来ない?」

「あ、いや、今日は新聞部?に行かないといけなくて」

勇気を出してクラスメート相手に情報収集を試みて、得られた情報は、名前を呼んだクラスメートの基本情報、そして学校内だけでなくこの辺りの地理も私の知っている物ではないという情報だった。近くに男子校とか今まで聞いたことない。知ってたら冷やかしに遊びに行ってるわ。



本当に、異世界に来てしまったみたいだ――



そう思いつつ、私は放課後、日野先輩に言われた通りメモを片手に新聞部の部室に向かった。この学校の新聞部の場所なんて私は知らなかったけど、上靴を履いた足は、慣れたように廊下を進み、私を新聞部の部室に連れて行ってくれた。ここが異世界だとしたら、ここに住んでいた私は間違いなく新聞部で、日野先輩とやらの後輩で、この学校のなかで普通に生活していたのだろう。大勢の人物から人違いされているようで落ち着かないが、誰も私のことを知らない世界に放り出されるよりましだと思うことにした。


部室の中にいた人たちは私が机に座るあいだ、こちらを探るような目を向けながら、部室のパイプ椅子に座っていた。緊張で無表情になった私に話しかけてくる。


「――あなたが七人目ですか?」

「あ、いや、新聞部の土生、です、ハイ」


私の心配パロメーターが「異世界への不安」から「取材うまくできるのかコレ」にぐんと傾いた。
だって新聞部と名乗ってはみたものの、私自身には取材の経験どころか新聞部に入ってた記憶なんて全く無いし。なんかここに集まって下さった皆さんどことなく怖いし。


人間、どんなに重い問題を抱えていても、いつだって悩むのは目の前に迫った小さな問題についてなのだ。


だけど皮肉にも、私はこの数秒後に再びこの「異世界」についての衝撃を受けることになる。






「えぇと、じゃあまず皆さん、お集まり頂き有難うございます。あの、七人目が来るまで自己紹介を兼ねて学年とお名前をお聞きしてよろしいでしょうか?」


時計回りにぐるっと、とジェスチャーをつけると、私の左隣に座っていた女性はこくりと頷いた。

「三年A組、岩下明美よ」

「……三年D組、新堂誠」


自己紹介、開始二名で私のメモを取る手が止まった。新堂?新堂誠?






「ああっ!!」





突然大声を上げた私に、皆の視線が集まる。だけど気にしてられない。岩下明美、新堂誠、日野先輩、鳴神学園、新聞部、七不思議の集会!!どこか聞き覚えがあると思ったら!










----------
あとがき。(2013.10.20)

風間と荒井君は、その気はないのに人の神経を逆撫でする天才だと思う。(褒めてる)

ただたまにシャレにならない人の逆鱗に触れるから話がややこしくなる。


当サイトは仲がいいってほどでもないけど息は合ってる、友達と知り合いの間のような腐れ縁な殺クラを推奨致します。
たまに話すと意外と話の合う知り合い的な。
保父さんな日野さんも推奨する。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ