始まりと始まりの関係
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とある場所のある部屋で、至極楽しそうな声が響く。
その声の主は、一枚の写真を部屋に集まった面々に見せ、高らかに宣言した。
「次の獲物は――」
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「はぁぁあああああん新堂さんかっこいいいいい!」
部室のドアを開けると、友人の奇声が耳を付いた。
廊下に響いてしまって他人事ながらめっちゃ恥ずかしい。
すばやくドアを閉めた。
黒いコートを脱いで近くのパイプ椅子に引っかけ、買ってきたジュースを部屋にいた友人に投げ渡す。
ダンス部をやめてしばらく立つけど、ちゃんと体力はついたままだな。運動場を走って息を切らしている奴らより、五階まで駆け上がってすぐ息を整えられる私の方が確実にタフだ。
その証拠に体育の持久走ではいつだって私の後ろに運動部の行列ができている。流石にダンス部をやめた身で一位は取りきらないけど。
「お帰り藍」
「ただいま。……新堂さんって誰?」
自分の分のジュースを飲みながら、友人が使っているパソコンの方に寄ろうとしたら、「ジュース持ったまま近付かないで!」と怒られた。自分だって私が渡したジュース、パソコンの横に置いてるくせに。けち。仕方ないのでコートを掛けたパイプ椅子に座って、ジュースと一緒に買ってきた器材をテーブルに広げる。
「新堂さんは今やってるゲームに出て来る人。学怖知らない?」
「ガッコワ?」
「学校であった怖い話」
「あ、なんか知ってる。ノベルゲームでしょ?」
といっても、小学生のころやったやつだからあんまり覚えていなかった。
「随分古いゲームやってんだね」
「これSFCの後で出た別のやつだけどね。――心霊研究部だもん、ホラー系は一通り試すさー」
「へえ、続編あったんだ」
部、といってもメンバーが友人と私の二人だけだから正式に部として認められてないんだけど。卒業した三年の先輩が先生にゴネて部室の所有権をもぎとってくれたらしい。有難う先輩。でも私正直幽霊とか妖怪とか信じてないです。ゲームとか漫画とかだけでいい。
「藍は気にしなくていいから」
友人が私の表情を見てそういった。
「いや、別になんも思ってないけど」
「そっか、じゃあ、そっちに集中してくーださい」
友人は私の前からジュースをかっさらうと、別の机にのせた。パソコンの電源を落としてから、私の隣に座る。
幽霊も妖怪も信じてない私が心霊研究部にスカウトされた理由。それは決して数合わせのみにあらず。つーか数合わせにもなってない。二人だもん。
「作業中は近くに水物置かない」
「完成したからいいんですうー。ほいこれ」
私はじゃじゃーんと手の上に乗った機械を友人に見せた。友人の顔がにやっと歪む。私もにやっと見返した。
「藍ちゃん特製盗聴器でっす」
「……でかしたっ!」
私が心霊研究部に入っているのは、この小手先の器用さを買われたからだ。
ちゃちいものだったら無線機とか発信機とかも作れる。
携帯の方が便利だしGPS使えよって話だけど、そういう問題じゃない。なんかこう、あるじゃんロマン的なあれがさあ!今まではパソコンの修理くらいしかやることなかったけどな!
友人は典型的な「携帯使えよ」派だった。
ええとも正直に言おう、私パソコン修理要因だよ!悪いか!
「……で、藍、完成はいいけどなんでこんな大量に作っちゃったの」
「だって!私散々他の機械も作れるよってアピールしてんのにパソコンの修理くらいしかさせてくれないじゃん!つい嬉しくなっちゃって」
「嬉しくなったからってこんなに大量に盗聴器作るやつがあるか!もういい、行くよ」
友人はさっさとドアを開けて部室を出る。行動力と度胸はピカイチなやつなのだ。
本人が心霊ものにしか興味がないのが、残念なくらいだ。
*****
私がのんびりと歩いて目的地についたときには、すでに友人は盗聴器を仕掛けていた。灰色の盗聴器を壁に付け、テープで固定。勝手が分からないらしくちょんちょんとカバーを指で突いている。友人が私の顔を見ると口を開いた。
「これ、どうやって音聞くの?」
「……その前に、もっと仕掛け方考えて。ドラマでもコンセントカバーの裏とかに貼ってるでしょうが」
「だってこうゆうのやったことないもん。藍やってよ。お願い!よっ、世界の土生!」
「つっごうのいいときだけぇ……」
ここは美術室。今日は美術部の活動日じゃないので誰も居ない。うちの美術講師は片付けに厳しいので、胸像や絵なんかも置きっぱなしにしていない。文字通り私達以外に人影のない状態だ。ちなみに私があらかじめ授業中に窓の鍵開けて入れるようにしておきました。褒めて。
しかし、私達の目的は美術室ではない。その隣、美術準備室だ。
本来、生徒の作品を保管したり、美術講師の控室になっているその部屋は、私達の学校ではその役割を果たしていない。
開かないのだ。
鍵が掛かっているわけでもない。
ただ、開かない。ドアノブは回るが、糊で貼り付けられたようにドアが開かないのだ。
先生は、中で何か引っかかってるんだろうと言っていた。私もそう思う。しかし、鍵で開かない、中の知れない部屋というのは生徒たちの格好の話のネタになる。このドアの向こうでは、白骨化した昔の美術講師が横たわっているだとか、監禁された少女が閉じ込められているだとか、はたまたこのドアは亜空間に通じていて、中に入ったら出て来れないとか、胡散臭い噂ばかりが独り歩きしている。おっと、その胡散臭い噂をせめて音だけでもと確かめようとしてる人物が目の前にいるんだった。失礼。
「んなに知りたきゃ外から窓割って入れば?」
「霊は怖くないけど教師とセコムは恐いの!」
「防犯会社に連絡いかないよう細工すれば?」
そう質問してみると、友人は少しの間絶句していた。が、すぐ気を取り直して手元の機械に目を落とす。
「で、これどうやって音拾うの?」
「隣の部屋の音拾うんならそっちよりレーザーのやつ使った方がいいよ。……擦りガラスでも使えるよね」
友人が貼っていた盗聴器は回収して、自分の鞄に放り込む。しまい方が雑!とまた怒られた。いいじゃん私のなんだから。代わりに別の盗聴器を出して、壁ではなく準備室のドアに向かう。
「ドアに仕掛けるの?」
「仕掛けるっていうか、この場で聞く。受信機が安物だから音質は悪いけど……ん?」
ドアの前に立って気付く。
少しだけ、ほんの少しだけ準備室のドアが開いていた。
開かずの準備室の、ドアが、まるで私たちを誘うように。
友人も気付いたらしく、私の横でひゅっと息を吐いた。
「……いこう」
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あとがき。(2013.10.7)
「学怖」って読むときは「がっこわ」って言ってるけど打ち込むときは「がくふ」なんだよね。変換楽だから。
みんななんて読んでるんだろう。