文芸道2
□おまけ
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おまけ2彼らのこころ
西高勢が帰り、話し相手がいなくなった真冬はなんとなくさみしくなって、前を歩く河内と後藤の元に小走りで寄って行った。
「あ、黒崎、丁度良かった。そっち肩貸してやって」
後藤は、満身創痍になっている河内に肩を貸している。もう片方、空いている方を支えてやって、と後藤は真冬に顎で示した。
「はーい」
「おい、いいって、女に肩借りるなんて……おい!」
河内が迷惑そうな声を出した、が、真冬は気にしない。
東校に居たころなんて肩を貸すどころか子分を俵担ぎにして走っていたこともあった。今更男女がどうだの言う気はない。
「うっわ、めっちゃ青くなってるじゃないですか!」
真冬が少し顔を顰める。
「だから腕でバット受けるなって言ったのに!」
「頭で受けろってか!!」
「だーかーら相手の武器奪えばよかったでしょうが!!相手も武器持ってんだからあの場合は卑怯もクソもなかったでしょ!?」
河内が戦っている間、逐一武器を奪えそこは避けろと口を出していた真冬だったが、そのことごとくを無視して、河内はいらない青痣を増やしていた。
「河内さんって頭脳派って聞いてたんですけど。ただの突撃兵じゃないですか」
「俺だって何も考えず突っ込みてえ時くらいある。いいだろ、勝ったんだから」
「……それ、えっと、あの時の事なんですけど、あのー……」
真冬は、勘が鋭い。
子分に囲まれて過ごしていた所為か、人の心の機微には敏感だし、嘘やごまかしもたまになら察することができる。
「河内さんって、白木さんのこと……」
「あ!」
言葉を続けようとした真冬を遮って、後藤が素っ頓狂な声を上げる。
「あそこの店の模型新しいの入ってる!!」
「え」
「は?」
後藤の視線の先には寂れかかっている模型屋のショーウィンドウ。二人に許可も取らず、興味の向いた方向にぐいぐいと進もうとする後藤の動きに、河内がいて、と小さく声を上げた。
「わ、わわ……」
思わず一旦河内から手を離した真冬は、数秒ぽかんとしてから、ずるずると河内を引きずっていく後藤の背に、もう!空気読んでくださいよ!と不満そうな声をかけた。
するとそれに気付いてか気付かずか後藤が真冬をくるりと振り返って、人懐っこい顔つきで真冬を見た。
それから頭の上で大きく手を振った、何だあれ、小学生かあのひとは。
うっかり笑ってしまった真冬も同じように元気よく手を振り返すと、後藤はまたも笑って背を向けた。
元気いっぱいの彼に引き摺られて呻き声をあげている河内に心の中で合掌し、真冬は仕方ない、というように肩を竦めて一人、緑ヶ丘の方へ歩き出す。
「……おい」
開店しているかどうか分からない模型店のショーウィンドウの前で、後藤と河内は足を止めた。河内の低い声が響く。
「……こんなときだけ空気読んでんじゃねえよ、馬鹿」
「何の話ー?」
そうおどけたように言って、後藤は一人で苦笑した。
ショーウィンドウのガラスに映った互いの虚像と目が合う。
そろそろ帰らなくちゃいけない、俺達が生きる泥臭い世界へと、自分達とは違う世界に生きる、「友人」のことを応援しながら、
後藤がふいに、ばん、と河内の背を平手て叩いた。
じわじわと背から腹へ、痛みがゆっくり進んでいく。
「帰ろっか、寮に」
後藤に言われるまま、肌寒くなってきた道を進んで帰路に着く。
背から伝わった痛みと同じように早く、この胸の内の感情も消えてしまえばいいのに。