文芸道2

□おまけ
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おまけ1 潜入アミダの結果




「20時2分」
街に出るなり、真冬は桜田に向かってそう呟いた。


「は?」

「電車の時間。確か次はその時間だったと思うけど」


駅の方をちらっと見て、真冬は桜田に、帰るんでしょ、と言った。


「あっ……あー……」


確かに樹季は無事帰ってきたし、桜田がこの街に長居する理由はない。ないのだが。

このままでは当初の目的、『黒崎真冬にまいったと言わせる』という任務が達成できない。


「あ、もしかして子分達と帰る?じゃあ間に合わないから一本遅らせて……」

「いや、そうじゃ……」


桜田の言葉が終わらないうちに、背後からバイクの音が聞こえてくる。


「桜田さーん!!」
二人乗りで桜田の前に車体を停めたバイクが五台。その内の一人が少し眉を寄せてバイクから降りた。



あぁ、前、パンをくれた人だ。

そうだと思い出すまで、約三秒。



「…俺達、このまま西高帰りますけど、どうします?」

「……………んー」

「一人で電車乗るのが寂しいなら誰かの後ろに乗せますけど」

「黒崎じゃあるまいし」

「ちょっと待ってどういう意味さ」


後ろから軽く桜田の背に掌底を入れる真冬に、大宮正義は、ああそういえば、と何かを差し出した。



「これ、落ちてたから拾っておいた」
差し出されたのは、真冬の生徒手帳。


「え、ええぇ!?本当だ、ポケットにない!!あっぶねー、喧嘩したってバレるとこだった!!」


「そういや黒崎はヤンキー隠して裏番してるんだったな」


「してないよ!!やめてよ変な噂流すの!」


生徒手帳を直し直し、桜田に怒鳴りつけてから、真冬ははああ、と大きく溜息を吐いた。


「でも今回ばっちり顔見られたしなー……河内さんの前でちょこっと啖呵切っちゃったし……ばれたらどうしよう……まいったなー……

「え?」

「?何?」

「お前、今のもう一回言ってみろよ」


桜田の真剣な顔に、きょとんとしながら真冬は素直に自分の言葉を反芻する。



「顔見られたしなあ」
「その後!」


「河内さんの前で啖呵切ったし」
「その後!!」


「ばれたら……」
「その次!!」


「まいったなあ」
「ワンモア!!」





「……まいったなぁ?」



クエスチョンマークを浮かべながら答えていた真冬だったが、目の前にいた宿敵が、よっしゃ、とガッツポーズをしたものだから完全に呆気にとられた。





「……ざまみろ!俺の勝ちだな!!」
「は?なに、何の話」
「予定とは違ったけど、これで目的は果たしたわけだ」



桜田は、真冬の前で嬉しそうに口笛を吹いて、ひらりと元々大宮が乗っていたバイクの後ろに乗る。



「じゃあな黒崎!今度会った時はちゃんと拳で勝敗つけようぜ!」
「桜田さん危ないからメットつけて」


捨て台詞と、子分の小言を残して、西高のバイク軍はあっという間に走り去る。

自分の番長に振り回されるのは慣れているのか、桜田の代わりに残された大宮は、嫌な顔ひとつせず駅の方に歩いて行った。





「……なんだったわけ」




一人、桜田の意図を知る由もない真冬はぽかんとしながらその背を見送っていた。



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