文芸道2

□キングが魔法を解きたがる
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だが――彼らの特攻は、廊下で鉢合わせた唐突なアクシデントによって一時的に止まることとなる。
精神が完全に攻撃的になった桶川の耳に、聞きなれた話し声が近付いてきたからだ。
「黄山はバスだったか?」
「歩きでも行けるぜ」
「ちょっ、ちょっと!!?」


地図をがさがさと広げながら近付いて来るのは風紀部の由井、早坂、夏男。会話の内容からすると、彼らも黄山に特攻をかけるつもりのようだった。

話を聞けば、風紀部は野々口を助けに行くのだという。目的地は同じだ。協力して黄山へと向かうことになった。



実力は折り紙つきの夏男、普段は真面目でも喧嘩となれば飛び抜けたセンスと学習能力を見せる早坂、一見非力に見るもののトリッキーな技を使う由井、そして緑ヶ丘に君臨する番長桶川――これだけの精鋭がいるのだから、黄山相手に勝つのは容易であるかのように思えた。しかし、対する黄山は数と頭脳派のリーダーを強みに襲い来る。


「やれやれ……新しい黄山の番長ってのは駒を動かすのが随分と上手いみてえだな」


頭を掻きながら、渋谷に髪をいじられた桶川は独り言を呟いた。
全力を出せば数メートルも吹き飛ばせる筈の所を手加減した上に、意識は失わせないよう、しかし起き上がれない程度に殴る。面倒な事この上ないが、樹季の行方を探りに来ている以上、あまり情報源を減らしすぎるわけにもいかなかった。

しかし、助っ人を倉庫内に残し、中庭で早坂・由井が足止めのため離脱し。狭い校舎の中でうようよと湧いてくる黄山生に、手加減している余裕もなくなってくる。夏男と一緒に黄山生を蹴散らしながら、桶川は舌打ちする。離脱した面々を思い出す。恐らく、緑ヶ丘のメンバーで最も腕が立つのは夏男と桶川だ。残りの面子はこの数を相手に、うまく持ちこたえているだろうか。



「……まあ、いらねえ心配か」



そんなに根性の無い奴は、自分の周りにはいない。





***





早坂の追憶。




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「夕食まで一緒に行ってるのか」


桶川から、夏男に番長の座が移ったばかりの頃の話。
寮での夕食後の時のことだ。あの頃はまだ早坂は、桶川達とはあまり話さず、ただ彼らを見て、また元のヤンキー同士でつるんでいるのかとだけ思っていた。もしかすると、早坂自身も風紀部に入ったことで一匹狼ではなくなったから親近感を感じ、友情に似た物すら感じていたかもしれない。


「うん、まあ」と後藤は気の無い風に、言う。


「ナンバー3だからか?」

「違うよ。確かにちょっとはそれもあるけど」


桶川・河内と別れ、自室へと向かう僅かな時間。交わした言葉はそんなに多くはない。


「でもさあ、ナンバー3だからっていっつもくっついてるわけにはいかないじゃんか」

「そういうもんか?」

「そういうもんだろ。俺は単にあの人と居ると楽しいから、くっついてるだけでさ。むしろ、ナンバー3だから離れないといけない時もあるんだ」

「そういうもんか」


今まで一匹狼だった早坂にはピンと来なかった。



「うん。特に喧嘩の時とかさ」

「?ナンバー3なら喧嘩の時こそ一緒に居るもんじゃねえのか」

「逆だよ。それじゃあ互いに信用してないってことじゃん」



こいつにこの場は任せられないと言っているようなものだ、と後藤はのんびりした口調で言う。


「こいつは大丈夫だって思うから離れるんだ。そう思って離れてるから、この場は絶対に負けられない、って思えるしさ」








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短い時間の中で交わした会話を思い出しながら、早坂は目の前の黄山生を蹴り倒した。


後藤が言っていたのは、こういうことなのだろう。夏男と桶川の活路を開くために、自分はこの場に残った。それは決して見捨てられたとか捨て置かれたとか、そういう温度の無いものではないのだ。










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あとがき。(2014.7.12)

あれ……清水がめっちゃいい人になった……



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