文芸道2

□キングが魔法を解きたがる
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「何だか今の救出劇、映画みたいだったな。白木が、見届けたい、って無理言ってた気持ちも分かる気がする」白木と一緒に野上の様子を見ていた清水が教室に入りながら、口を挟む。



「正確には、盗み見たい、だけどな。テメエ見張ってろっつったろうが何野次馬に来てんだ」



窓から、夏男の方に駆けて行く野々口の姿が見える。
手には、かつてぼろぼろになった王子様の絵本。

ひとつの物語の終わりに、少しだけ穏やかな時間が流れる。




「……お前は帰らねえの?」




ぼそりと呟いた清水に、白木は肩を竦めた。


「私だって空気は読みますよ。このストーリーはお姫様と、お姫様を助けに来た王子様が居れば充分でしょう?」


だから、紡ぎ手は紡ぎ手らしく、夏男や野々口に見つからないよう、こっそりと彼らを見送ったのだ。

物語の邪魔をしないように。

窓の外を見遣り、白木はハッピーエンドを見送った。


ああそれでも。
お姫様なんて大層な役じゃなくていいから、自分もあの中に入りたかったかも知れない。

こうして、物語の紡ぎ手は、ゆっくりと物語を追うのをやめました。



幾ら焦がれても、彼女自身が物語の中に交わることはないと、それは彼女が一番分かっていたことでした。







しかし。


「……あれ、一人戻ってきた」去ったと思った緑ヶ丘生の一人が、こちらの校舎の方へ戻ってきた。「誰か探してるみたいだな。別の奴らと合流しようとしてるのかな……あ、来た来たやっぱり」


倉庫の方から、黄山の制服を着た緑ヶ丘の人物が駆けてきていた。

その人物を見て白木が驚いたような声を上げる。




「なんであの人たちまでここに?」









❀❀❀

ここからは、もうひとつの物語の話だ。

ひとつの物語に、語るべき話がひとつとは限らない。

これは、王子様とは似ても似つかない王様と、物語を遠くで見ていた小説家のお話。

❀❀❀









「捕まった?白木がか?」後藤と河内の二人から報告を受けた桶川は、詳しい事を話せ、と冷静に河内に促した。
「はい。まず、白木が捕まったのは俺達が会った最後の日、二つ結びの女を白木が追って行った後だと思います。次の日、白木からメールで欠席すると連絡がありました。念のため電話で連絡を取ったら、本人が捕まったと言っていました。その後はメールでしかやりとりできませんが、本人の様子から、暴力を受けているような状況ではないと思われます。ただ――」河内はふうとため息を吐いて片眉を下げる。「あちこち場所を変えて拘束されているようです。全く足取りが掴めない」
「…………黄山に行って情報を掴むしかねえな」


河内の台詞を聞き終わると、桶川は教室の開き戸を滑らせ、廊下に踏み出した。

「もう行くんですか?」

「早い方がいい。おそらく、あいつが無事なのは今だけだ」

桶川は夏男から聞いた野々口の一件についての情報を河内と後藤に話す。


「今は黄山も、野々口の件で手一杯で、白木のことに気を裂く余裕がねえんだろ。黄山高校から白木を離しておくことだけを考えてる。だが、問題はこの件が片付いた後だ。少し調べりゃ俺らと白木が親しい事なんてすぐ分かる。そうすりゃ白木は緑ヶ丘番長を呼び出すいい餌だと思われちまう。黄山が野々口に気を取られてる間にこっちに連れ戻さねえと、危ねえ」


「なるほど、じゃ、早いとこあちらさんに白木の居場所を聞きに行きますか――お礼参りも兼ねて







三人の笑みは何処までも冷たく、今の彼らならば、確実に文字通りの事をするだろう。



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