文芸道2

□不変の事実
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「………………」
しまった、やっぱり昨日の内に双眼鏡でも用意しておけば良かった、と早坂は現状を見てそう思った。


桶川はすぐに二人に引っ張られて去っていった。


河内に携帯でその旨を報告して、自分も後から三人を追おうとするのだが、やたらと木々が豊かな緑ヶ丘。離れて追っているとすぐ木に邪魔されて見失ってしまいそうだ。

せめて桶川がいつもの派手なシャツを着てくれていたら目立って追いやすいのだが、追試当日だし肌寒いしで、今日は学ランである。

そしてとうとう、三人の姿が視界から消えた。

舌打ちしながらも、とにかく前へ進もうと足を踏みだした時。



〜♪



大音量の着信音が響いた。


何だ?

渋いイントロだが、聞こえてくる方向から察するに、あの三人のうちの誰かの携帯だ。
誰かがマナーモードにし忘れていたのだろうか?
いや、違う気がする。
音を頼りに見つけた三人は、携帯を持ってあたふたしていたのである。音を止める様子はない。



「なにやってんだ……?」



こちらとしては居場所が分かって有難いが。











音の発信源は、後藤の学ランのポケットだった。だが、その音に一番驚いたのは当の後藤本人であった。

「え、え!?なにこれ!?」
ごそごそとポケットを探って出てきたのは、白い携帯。

「……!これは……!!」
最大まで音量の上げられた着メロ音に、反応したのは桶川。メロディのみで歌詞は付いていないが、その曲は彼の崇拝してやまないネコマタさんのオープニングソングだった。
「それ、後藤さんの……?」
謎の携帯を握りしめた後藤は、困ったように真冬と桶川を見た。

「いや、俺の携帯黒いし…………ってこれ、白木のじゃん!?」

「なんでお前が持ってんだ」

「知りませんよ!いつの間に……!」

騒いでいる内に、三人に向かって石つぶてが飛んでくる。運動神経の良い者揃いなのですべて避けるか叩き落すかしたが、つぶての数が多いので結構ギリギリだった。


「後藤さん!携帯!携帯の音で居場所ばれてるんですよ!」

「そうか、この音が発信機代わりに……!」


ぱちっと携帯を開いて操作しようとする後藤の肩が震えだした。


「予想はしてたけど……ロック掛かってる――――――……!」



「だあっ、もう壊しちまえばいいだろ!」


後藤の手から携帯を奪い、桶川が力を込めて握り潰そうとする。

それは流石にまずい、と慌てて後藤と真冬が止めに掛かろうとするが、その必要は無かった。




液晶を見た桶川の動きが止まる。






液晶で『パスワードを入れてくれ!』と吹き出し付きでこちらを見ているのは、皆大好き我らがネコマタさんであった。



とてもとても壊す気になれず、携帯をその場に置き、近くの木に頭突きを始める桶川に、困惑した後藤が声を掛ける。


番長のネコマタさん事情を知っている真冬は、携帯を拾い上げながら微妙な表情を作って、



「ハニートラップに引き続き心理戦を兼ねた発信機を仕込むなんて、やりますね白木さん……」

なんて言っていた。




「……………………」



「仕方ないです、このまま進みましょう」
真冬はなんとか桶川を説得した。
桶川は不平不満をブツブツ言っていたが、こうなりゃ早く追試会場行くぞということで納得した。
「えええ、この趣味の悪ぃ音楽流しながら移動すんの……」



ぽそっと呟いた後藤の言葉に、桶川の眼光が鋭くなる。

「番長落ち着いて!仲間割れしてる場合じゃないですってば!」

かくして、大いにチームワークを乱しながら、三人は数々の罠を潜り抜けていった……











そして四月。



「桶川さーん」


かつてこれほどまでに河内が上機嫌な声を出したことがあっただろうか。



「俺達クラスメイトですよ!!!」
今回ばかりはからかいの意味は無く純粋に嬉しいのだろう、河内は新たなクラスメイト(留年生)に対し満面の笑みで手を振るが、その笑顔は桶川の神経を逆なでするだけだった。


あの後桶川は河内チームの罠をすべて潜り抜けた。潜り抜けたのだが、運が悪かった。

突破したはずの岩落としの罠は強風に煽られ飛んでくるわ突如起こった地震であちこちから刃物やロープは飛んでくるわ。どこがどうなって桶川の元へ一点に集中して物が飛んできたのかは分からなかったが、とにかく天変地異レベルに運が悪かったのだ。それこそ桶川の力押しではどうにもならないほどに。

その天変地異が後藤が河内チームに入った瞬間に起こったと聞いた時は、流石の桶川も背筋が冷たくなったそうだ。ホラー的な意味で。

ヤンキー連中の秩序は保たれたし、桶川も留年したものは仕方ない、とある程度は割り切っているのでいい結果といえばそうなのかも知れなかったが。


クラス分け表をぼんやり眺めながら(見えやしないので本当に眺めているだけだ)、樹季は湧き上がってくる罪悪感と戦っていた。


何に対しての罪悪感かと聞かれると、これが、情けないことに追試を邪魔した事に対してではない。

桶川がこの学校に残った事を、心のどこかで喜んでしまっていることについてなのだ。
一度は諦めた。今年で最後、残り数か月と自分のなかで諦めていた。初詣の時、神社で願切りまでした。



――しかし、桶川が留年し、残り一年という猶予ができた。



樹季の中で、諦めていた想いが再び息を吹き返している。なまじ、望みの無い状態だったからこそ転がり込んできた――いや、脅された形だったからとはいえ自分で繋いだ望みに、余計に喜んでしまっている。


ここまで考えて、最終的に行き付く考えは、人の邪魔しておいて何舞い上がってんだ自分、というところで。



「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ」



喜びと罪悪感のないまぜになった心中を吐き出すように頭を抱えて息を吐くと、丁度樹季の様子を見に来た後藤がびくっと動きを止めた。



「なにやってんの白木」
「……自分の中の罪悪感と戦ってる」
なんだよあの神社、いい仕事しすぎだろクソと宛ての無い八つ当たりを罪なき神社にぶつけながら、樹季はがすがすと横に来た後藤の脇腹に拳を入れた。力は入れていないので後藤はくすぐったがって身を捩るだけだったが。

そういえば、元旦に後藤から送られてきた桶川のおみくじの画像に、時間に遅れると書いてあったが、追試のことだったのだろうか。この辺り周辺の神社の神は総じて働き者であるらしい。


「あ、そうか見えないのか。えーと、白木は俺と河内と同じクラスだって」


樹季の手が止まる。


「……ということは」

「桶川さんもいっしょ」


樹季はその瞬間、ぱしんと自分の口を手で塞いだ。そうしなければ、いつぞやのように神様有難うと外面も無く叫びだしてしまいそうだった。今しがた神様クソと心の中で言っていたにも関わらず。



「ちょ!?痛い、白木、痛い!」
叫ぶ代わりに、後藤の脇腹に入る拳に力が込められ、完全にとばっちりを受けた後藤が顔を顰めた。





*****





「お前はちったあ反省しろ!」


まだ機嫌が戻らないのか、河内を怒鳴り付ける先輩に河内はうーん、と苦笑いを浮かべた。


「すいませんもうしません」

「笑うな。てめえ歯ぁ食いしばれ」


河内は笑顔のまま私の腕を引っ張り、自分の盾にするように先輩の前に立たせた。


「こいつも共犯ですよ」


全くその通りだし正直河内に倣って先輩と同じクラスになれた事を諸手を振って喜びたい気持ちでいっぱいなのだが、やっぱり申し訳なさが勝って目を逸らしてしまう。

先輩も女子が盾では下手に手を出せないのか、青筋を浮かべながら拳を引っ込めていた。

もしかしてこの一年、喧嘩になりそうになるたび私出汁にされるんだろうか。嫌だ。


「白木はお前が巻き込んだんだろー……離してやれって」
唯一私の肩を持ってくれる後藤が河内から私を引き離してくれた。常々思うが、この二人はここまで性格が正反対なのになんで仲がいいんだろう。昔からの付き合いとかそういう感じなんだろうか。











「な、なあ、あれやばくないか?」

「んー?鬼ごっことかじゃないのか」

「男子と女子でかあ……?」

鬼気迫る感じだったし、なんか危ないんじゃ――。

それに……。











「白木!」
窓際に居たヤンキーが私の名前を呼ぶ。何かと振り向いたら、そのヤンキー二人は窓の外を指差した。


「あそこで男子に追っかけられてる女子、お前の後輩じゃねえの?風紀部の」


慌てて窓枠に駆け寄って見てみるが、視力の所為で誰が追いかけられているかは確認できなかった。




風紀部。




また何か、新たな問題が起きようとしているんだろうか。










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あとがき。(2013.12.24)

みんなでわちゃわちゃ楽しくやってればいい。


そうだ皆さんメリークリスマスイヴ。
よい聖夜を。



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