文芸道2

□悪役たちの内緒話2
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「っだい、じょうぶ……ちょっと、綾部追っかけてて……」
何度か呼吸をして白木さんは息を整えると、そう言った。よかった、気分が悪いのではなく、走って疲れていただけみたいだ。


「あっ、じゃあ番長!番長も一緒に追ってたはずなんですけど見ましたか……っていうかあやべん無事でしたか!?」

「えっ追試前に何してるの桶川先輩……」


白木さんは番長があやべんを追っていたという事自体知らなかったらしい。ということはあやべんはうまく番長を撒けたんだよね?とにかく大惨事になってなくてよかった。


「それにしても、白木さんはどうしてあやべんを追って……?」

「なんか必死な顔して走ってたからなにかあったのかと思って」


……それ、番長が追っかけてたからです。あやべんが逃げていた顛末を話すと、白木さんはとてもとても微妙な、怒ったような呆れたような様子でため息をついた。



「まあまずは綾部か……行こ」
へろへとと走り出した白木さんと一緒に第二女子寮に入って、生徒会室の扉を開いた。ガンッという手ごたえ。
「ああっごめん!!」
「綾部、なんでそんなドアの前に立ってるの」
勢いよく開けた扉はそのまま扉の前に居たあやべんの頭を直撃してしまったらしく、あやべんは頭を押さえて座り込んでいた。


「黒崎さん?と、白木さん」


その座り込んだあやべんの向こうには、生徒会長。そうだよね生徒会室なんだから!いるよね!


「なんだぁ黒崎さんと麗人は仲良くなったの?」

「え……?あ、はい」

「仲良くあらへん」


生徒会長のキラキラに圧倒されながら頑張って答えたのに、今までで一番早い否定の台詞が返ってきた。


「あやべん……!」

「この間渾名同士で呼び合ってたくせに」

「やかましい!……こいつが俺の実家に連れてこう言うて一人で盛り上がっとるだけや!」


ぼそりとツッコミを入れた白木さんに怒鳴って、あやべんはまた頭を抱えた。そのあやべんの返しに、食いついたのは意外にも会長で。
「実家……?そう、でも黒崎さん麗人の実家の住所知らないでしょ?」


!!!!!


ちらりとあやべんの方を見てみたけど、あやべんが教えてくれたり……


「……教えるわけないやろ!!ああなんや心配して損したわ!!自分アホやな!!」


……しないよね。ぐっ、勝ち誇った顔しやがって!自分だって忘れてたくせに!


「まぁこれで諦めぇな。会長に聞いても無駄やで、一応役員の俺を裏切らへんからな」

「ふふ、そうだね。ところで黒崎さん」


にっこりと会長が笑う。前みたいに倒れることはなかったけど、やっぱちょっと怖い。……だってキラキラ抜きにしたって、生徒会とか執行部とか、無条件で怖くない?



「これあげる」
だから会長から一枚の紙を渡された時は、一瞬退学通知とか停学通知を連想してしまった。皆一瞬思うよね?だって生徒会から貰う紙とかそれくらいしか思い浮かばない。



どきどきしながら紙を開くと。






綾部麗人 実家







二つの文字の下に郵便番号と住所。生徒の在籍名簿とかいう奴だった。


「黒崎さん、よければこれ」


そして追い討ち。白木さんがすっと千円札を二枚手渡してきた。


「交通費の足しにして」
「おおおおおおい何やっとんねん守銭奴!」
「だってあの綾部がここまで生き生きしてくれてるなんて感慨深くて。いいよもう二千円くらい食費削ってやり過ごす」
「やめろ!その参観日みたいなんやめろ!」

「黒崎さん、うちの綾部をよろしくお願いします」

「なんか自分テンションおかしないか!?」


涙をぬぐう真似までしてみせる白木さんのノリの良さに、あやべんがツッコミを入れるけど、白木さんが気にした様子は無かった。その様子を見ていた生徒会長が面白そうに声を掛ける。

「白木さんは行かなくていいの、麗人の実家」

「綾部は付いてきてほしい?」

「来んな!」

「だ、そうなので行かないです。黒崎さんよろしく」

ぴっと敬礼をされたので私もびしっと敬礼を返す。これはもう、絶対あやべんと家族の溝を埋められるよう、気合い入れていかなくちゃ!





*****





綾部が真冬に引きずられるようにして生徒会室を出て行った後、生徒会長は珍しく笑顔を消して樹季に話しかけた。


「なんで付いて行かなかったの?」
「断られたじゃないですか」
「あんな風に聞いたら麗人はああ答えるって分かってたじゃない」


君ならそれくらい予想できてたと思うけどなあ、と花房はつまらなさそうに呟いた。


「綾部が自分から話すまで放って置こうかと思って」

「……話さないと思うけどなあ、麗人は」

「それならそれで構わないんですよ。私が困るわけじゃないし」

「……白木さんはさ」


くるくると器用にペンを回しながら花房は言う。


「人と距離を置くことに慣れ過ぎてない?」

「距離を置くなんてそこまで凄くはないんですけど……、個人のプライバシーに入り込まないようにしてるんですよ」

「ふうん、それで白木さんは満足なのかな?」

「……いや、実は付いていきたいのはやまやまだったんですけど、このあと追試組の勉強を手伝わなきゃいけないから学校離れるわけにはいかないかなって」


書類をゆっくりと机に置き、花房はうーん、と首を捻った。


「……白木さんってさあ、本気で気にしてないのか、気にしてない振りしてるのか、分かり辛いんだよねえ……正直なところ、白木さんはその生き方、辛くないの?」

「その生き方?」

「自分の我儘を全部後回しにする姿勢……自分の我儘を口に出さない姿勢。白木さん、今、本当は二人に付いていきたいと思ってたでしょ。それを理屈と倫理で押し込めてる」


文化祭の時もそうだったじゃない、と花房は指で机をカツカツ叩いた。




「普通の人はさ、もっとこう……理屈に叶ってても、不満がある時は誰かに愚痴なり文句なりぶつけるものでしょ。人間って、感情と理論が一致しない生き物じゃない。白木さんには、そういう甘えが無いんだよね。一人で不満ごと全部飲み込んで我慢してるように見えてさ」

「そう見えるだけです。私は不満があるときはちゃんと言いますよ」

「白木さんがそう言うなら僕は何も言えないんだけどね。ただ、自分でも気づかない不満なんてものもあるからさ」



甘え癖つけとくのも大事だよ、と気の抜ける声で言って、花房はその会話を打ち切った。





*****





……という会話をしたのが昨日の話。

生徒会長との会話の後、先輩の姿が見えないから、もしやと思ってはいたが、案の定桶川先輩は追試の試験を落としたらしい。
後藤が申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。

だが過ぎてしまったものは今更だし、もう一回だけ、とお情けのお情けで追試のチャンスを貰えたのでもう何も言うまい。

今度こそ追試を無事クリアしてくれるといいんだけど……、と心配になるが、考えても仕方ないので不安を覚えつつ私は風紀部の部室に向かって歩き始めた。


甘え癖、と誰かは言うが、今はとてもそんなこと言ってるヒマないんだよね。





*****





風紀部部室。



読んでいた本から顔を上げ、早坂が驚いた声を出す。


「え、じゃあ白木、また明日部活来ねえのかよ……今は特に活動することもねえし……休むのはいいんだけどよ、お前最近忙しすぎじゃねえ?なんかあったら俺達にちゃんと言えよ」
連日の勉強会でめっきり部活に顔を出さなくなっている樹季だったが、風紀部にも文芸部にも欠席理由は言っていない。鈍い早坂も流石に心配した。


「白木は意外と知り合いが多いからな」

将棋の盤を出しながら、由井が呟く。

「その上、頼みごとを断らないタイプでもある。しかしほどほどにしておかんと自分の事ができなくなるぞ」


由井にまで珍しくまともなアドバイスを貰い、樹季が微妙な顔になった。真冬一人だけが、いつもの気の抜けた顔で、そうですかー、と残念そうな顔をしていた。

自分達の顧問である佐伯鷹臣が部活に顔を出す確率は物凄く低い。

裏風紀部員のウサちゃんマンと夏男は、有事にしか来ないので普段は会わない。

表部員の四人で集まることの多いこの部活は、一人欠けただけで、とても寂しいことになってしまうのだ。

まあ樹季は風紀部といっても、文芸部と兼部なので元々一日おきにしか来ないが。

それでもしばらく来ないとなると……元々なにもない簡素な部室が、一層殺風景に感じられた。
そんな時だ。
「早坂と白木居るか?」
部室のドアを開けて意外な人物が顔を見せたのは。





*****





後藤はぶらぶらと森の中を歩きながら溜息を吐いた。勉強会、というか後藤は勉強を教えるなんてことできないので、実際は桶川の目付け役になるのだが、それの疲れではない。

ヤンキー集団の今後を案じての溜息だった。



次代のトップがいない。

桶川さんが居なくなったら河内か俺が番長!?俺だったらどっちも嫌だ!

確かに二人とも実力はある。

片や裏切り前科持ち、片や運だけが取り柄のラッキーマンだが。


「――ん?」
来年度の事を考えて暗くなっている後藤の耳に、聞きなれた声が聞こえてきた。声の方を見ると、木々の間から明るい金色が見えた。どことなくただならない雰囲気を察したのか、ヤンキーの勘か、後藤はさっと近くの茂みに身を隠す。



――何だ……?


こそこそと移動し、話をしている人物たちを確認して、後藤は少し驚いた。金髪の男は、確か風紀部の早坂という男。その隣に居るのは樹季。そしてその二人に何か話をしているのは、



「……河内?」




なんでも、文化祭の件で自己謹慎するから、追試の勉強の手伝いも自重する、と言ってしばらく姿を見せていなかった河内だった。それが河内の反省の形なら、と後藤も強くは押さなかったのだが。その河内がなぜ風紀部の彼らと一緒に居るのか。貸しがどうのという会話は聞こえてきたが、内容が分からない。もっと話をよく聞こうと後藤が身を乗り出した瞬間、それははっきりと聞こえてきた。



「お前達には桶川さんが追試を受けられないように――邪魔して欲しい」



……な




「「なんでだよ!!!」」
隠れていたことも忘れ、茂みから立ち上がった。









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あとがき。(2013.11.2)


今回の小説と全く関係ないんですが17巻の番長のプロフィール見て興奮して死にそうになりました。

末っ子。


末っ子!


末っ子!!


拗ねまくってこうなったってかわいいなオイ。
うおおおお幼少時代めっちゃ見てええええぇぇぇぇ




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