文芸道2

□東方邂逅再び
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あれは……あの画像は、後藤の粋な計らいだろう。どういう経緯で私の気持ちを知ったのかは分からないけど、河内がしゃべったに違いないきっとそうだ。ちょっと待って、ってことはもしかして先輩にまでばらされちゃってたりするの?えっえっどうしようそれ死ねる。



……とまあ、ぐるぐるそんなことを一晩中考えてたわけで。

夜中テンションのまま、混乱している私はついうっかり後藤から送られてきた例の画像を待ち受けに設定してしまった。


……いやあのほら、後利益あるかもしれないじゃないか。なんか有難い気がするじゃないか!
いつか、不陶花学園に通う友人から、好きな人の写真の前にその人から貰ったシルバーリングを置いて拝んでいたことがある、という話を聞いた時、理解不能だとコメントしたことがあるけども、反省しよう。今ならその気持ち痛いほど分かる。

自分に言い訳しながら、もそもそと冷たい空気の中、フレアスカートやセーターを取り出して着替える。カラータイツとリボンのアームウォーマーを身に付けて、部屋の外に出る準備は万端だ。

「あけましておめでとうございまーす」

階下に降りると、丁度航ちゃんが玄関を潜って挨拶をしている所だった。朝は苦手なはずなのに、しっかり髪型も整えて、律儀におかずのおすそ分けまで持ってきてくれている。
挨拶を返しながら階段を降り切って、おかずを受け取る。航ちゃんは小さい頃からの付き合いなので、うちがおせちを作ってまったり過ごすような家庭でないことは知っている。おかずはその配慮だろう。有難く受け取って朝ごはんにすることにした。
上がっていいよ、と家の中に手招きすると、航ちゃんは首を振って答える。今から山下君が作ったおせちを食べに行くらしい。

そうか、もう子供じゃないもんな、年上の女子の家に上がるなんてしたくないか。
少しだけ寂しく思っていると、玄関からひょこりと顔を覗かせた、三白眼。

「いいじゃん、一緒に連れってても。樹季さん緑ヶ丘だから真冬さんのこと知ってるでしょ?」

見覚えのあるその顔は、いつの日か私に抱きついて一晩中固め技を掛けてくれていたドMの顔だった。
「で、でも今日は東校の集まりだし」
「寒川は身内が来て参観日みたいな雰囲気になるの嫌なだけじゃないの」
舞苑に指摘され、航ちゃんはぐっと声を詰まらせる。気持ちは分からんでもない。家族と知り合いがプライベートで鉢合わせした時の気まずさは半端ない。


……このまま二人に付いていけば、黒崎さんに会えるんだろうけど、それは彼女に迷惑じゃないだろうか。それに他の東校生もいるって……いるって……



……そういえば、大久保に港ちゃんの件で釘指してないな。





そのことに気付いた瞬間、私の体はおかずを台所に置きに行き、外行き用の靴を履いていた。





*****





おせちの作り手、山下家。

一足先におせちを食べ始めていた真冬は、樹季の姿を見るや否や、大きく咳き込んで胸を叩いてから、嬉しそうに樹季に駆け寄ってきた。


樹季の事を知らない東校生の何人かが、不思議そうに樹季に視線を送るが、我らが新旧番長がフレンドリーに接しているなら敵ではないのだろう、とざわめきは割とすぐに消えた。


「先輩今日の恰好すごく可愛いです!特にこの……腕抜き!」
「アームウォーマーね」


私は事務員か。


「冬はこういう格好の方が多いんだけど」
「へええ、なんか先輩の私服ってもっとさっぱりしてるイメージでした……いや、可愛いんです!今日の服も似合ってるんですよ!?」

あとこの間の文化祭のウェイトレス姿も似合ってました!と余計な一言も付け加えられた。

「俺も見たい」

真冬の声が響くと、必然的に部屋にいる東校ズにも聞こえるようになっている。樹季の向いている方はおせちを囲んでいる面々が見える方であるから、樹季と同じくらいの身長の真冬が間に挟まれているとしても他の人物たちの反応はよく見える。咳き込み、鼻に飲み物が入ったのか顔を赤くして鼻を押さえているのが寒川で、へええ、と和やかな様子で微笑んでいるのが大久保。その後ろから、樹季の分のお吸い物を持ってなになに何の話?と話に入ってこようとしているのが山下。その他の不良たちは樹季よりも咳き込んでいる寒川の方が気になるようで、慌てて背中を擦ろうと立ち上がりかけていた。



そして、残りの一人、舞苑は横から樹季の顔を覗き込むようにして、みーせーて、と掌を上に向けて樹季に付き出した。すかさず真冬のチョップが舞苑の頭に飛ぶ。
「ちょっと舞苑、あんた何言ってんの!?」





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あとがき。(2013.8.2)

このくそ暑いのに小説内ではお正月。
その寒さ分けてくれないかな。


「東方邂逅」って意味を聞かれたんですが、ただの造語です。

東校=東方、で、夢主と東校メンバーがちょっと関わりを持つから邂逅。



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