文芸道2

□どうした妹よ
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樹季さんの回答のタメが長かったのは知り合いと言っていいのか微妙なところだったからだろう。俺も知り合いかと聞かれたら悩む。

「ふーん、どうも、妹がお世話になってます」
「ああいえ、はは……」
参観日の様な状況に反応できなかった、すぐに慌てて礼を返す。逆にご迷惑おかけしましたなんて余計な言葉は出さない。

でも、どうしても。

「そんなに俺世話?なんてしてないですよ」

いたたまれずにそう言うと、樹季さんのお兄さんはそうですか、と顔を上げた。あ、なんかあっさりしてるところは似てるかもしれない、この二人。
「お二人は初詣ですか?」
「うん」
「まー暇潰しになー」
……初詣の意欲があるのかないのか分からない反応だ。

「ごめんね引き止めちゃって」

「いえ……」

会った時と同様、樹季さんは抑揚のない調子でそう言って、俺に向かって手を振った。俺も振りかえす。

ひたひたと帰路に付きながら、変わった兄弟だなあ、なんてことを俺は考えていた。





*****





まず、港ちゃんに会った。

次に、ジャンケンで買ってリンゴ飴のおまけを貰った。

射的では今までにないくらい命中する。

何と自販機では当たりが出た。

この、俺が。アンラッキーボーイ、大久保寿が。

耳元で気にしない方がいいですよと港ちゃんは言う。


「でもこれで来年めちゃくちゃ運が悪くなったりするかも」
くすり、笑った声がした。
「じゃあ、おみくじ引いてみましょうよ」
「、おみくじ、」
確かに、運気を見るなら一番手っ取り早い方法かも知れない。
俺は、港ちゃんの助言通り、境内の近くにあったおみくじを引いた。
「あっ、大凶だ!!!」
おかしい話だが、なんだか却ってほっとした。
いきなり運が上がった、なんてことになって、来年しっぺ返しが来るなんて怖すぎる。

案の定、港ちゃんには表情が逆ですと呆れられたけど。

「だって、これで来年、不運過ぎて港ちゃんを巻きこんじゃうってこと無くなるから」

嬉しいよ、と言って笑いかける。

港ちゃんは口をぱくぱくさせたあと黙り込んでしまった。困らせただろうか。




「……――はいはいはいはい、おみくじ引いたら退いてくれませんか」



冬の寒空に負けない冷たい声がいきなり割って入って来た。
港ちゃんが慌てて身を引く。

「港ちゃん、久し振り」
「あ、樹季お姉ちゃん!お兄さんも!」
後ろが詰まらないようにだろう、樹季ちゃんは手早くおみくじを引いて、列の横に退いた。お兄さんと呼ばれた人はおみくじを引かずに樹季ちゃんと一緒に退く。
「港ちゃん、知り合い?」
「幼馴染です、小さい頃よく遊んでもらってて……」
大久保さんこそ、知り合いですか?と港ちゃんに尋ねられ、思わず言葉に詰まってしまった。夏休みの一件は、話してしまっていいのだろうか。
「それより、港ちゃん、航ちゃんが心配してたよ」
素早く樹季ちゃんがフォローを入れてくれる。うまく説明する自信が無かったので、有難かった。
「お兄ちゃんが?」
「悪い虫がつかないか心配なんだってさ」
「……」
あ、これフォローじゃない。明らかに、俺の方を見て言われた。無表情なので、牽制されているように見えて、なんだか顔が引き攣ってしまう。
「樹季ちゃん、ええと、夏休み、舞苑はあの後謝ったりした……?」
俺達からも謝罪のメール送るように言ったんだけど、と話題を逸らしたのは樹季ちゃんとそのお兄さんの顔が保護者の顔つきになってきていたからだ。
樹季ちゃんは話題転換には何も言わず、ただ携帯のメール履歴を開いて、威圧的な気を発してそれを見せた。ざっと確認する。大迷惑なメールを送られているということだけは理解できた。舞苑が変な方向に樹季ちゃんを気に入ったことは十分分かっていたけど、それでも女の子に送る内容じゃないよなあ。


「……ごめんね」


なんとなく俺が謝ってしまった。
樹季ちゃんは肩を竦めて携帯を閉じる。
「もういいですよ。それより、港ちゃんをちゃんと送ってあげて下さいね」
「なにかあったらボコりに行くからなー」
港ちゃんを心配する二人の兄妹に曖昧に笑みを返して、俺は港ちゃんに向き直った。
「……じゃ、お参りしたら帰ろうか」
お参りのために境内に向かう。
途中で、二人を振り返って見た。
表情こそないが、優しい目で港ちゃんを見ている。

「あの二人、港ちゃんのこと大切に思ってるんだね。仲良いんだ」
「小さい頃から一緒に居ましたからね」
「ってことは、番長も一緒に?」
東校を纏めている後輩番長の名前を出すと、港ちゃんはこくりと頷いた。
ずっと一緒に居たんだろうな。
にこにこと笑う港ちゃんを見ていて、なんだかこちらまで温かい気持ちになった。



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