文芸道2

□今年も変わらぬ修羅場です
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「貸せ」


見かねた桶川さんが、白木の持っている段ボールを片手で持ち上げた。

ひゅうっと白木が鍵を取り出しながら口笛を吹く。


「流石先輩」


普段は人を持ち上げるような台詞なんか吐かないくせに、なんだその態度の差は。

苛々と湧き上がってくる感情が顔に出たらしい、学校へと続く森の坂道の中、別に用があった訳でも何でもないのに後藤が曖昧な笑顔を向けてくるのは、後藤の方は白木の方を気に入っているからで、一応仮にも緑ヶ丘のNO.3のくせに一般生徒も含めてみんな仲良しでも構わないというその姿勢は呆れを通り越して「流石」の一言に尽きる。
幾らテストの時の恩があると言えども、白木は女子で一般生徒に過ぎないのだから、会話はともかくパシリのような真似はしないで欲しい、巻き込まないでほしい。それなのに会話どころか桶川さんまで巻き込んで積極的に白木を不良の輪に入れようとするのだから、やっぱり後藤は変わっている。

とにかくそんな理由から、森の中、重い空気を漂わせながら手持ち無沙汰にかぱかぱ開く段ボールの蓋を眺めながら歩いていたその時、不意に白木の「河内君」という声を聞いた。

まともに返事をしてやるのは癪だったから、何も言わないまま視線だけを返す。


「怪我してるけど痛くない?」

「もう治った」

それに、怪我したのは後藤やお前だって同じだろ、と続ける。
まあ桶川さんも怪我したっちゃしたが、この人は規格外だ。

「だって河内君、先輩にけちょんけちょんにされたんでしょ」

喧嘩売ってんのかこの女。

じろりと今は手ぶらになっている白木を睨むが、白木の薄い表情からは天然で言われているのか、からかわれているのか、判別がつかない。
腹いせ交じりに段ボールごと部誌を投げ捨ててやろうか、と思わず段ボールを持つ手に力が入るが、目敏く俺の手元に気付いた後藤に止められた。


「やめろよ、白木怒らすと怖いんだからさ」

「……後藤君?」

「いや馬鹿にしてるわけじゃなくてさ、普段大人しい奴が怒ると怖いっていうか、気迫が……ねえ、桶川さん」

「俺に振るな」

「……後藤君、文化祭のときのアレ、まだ根に持ってるの……?」


白木が呆れたように言う。

その言葉に後藤と桶川さんが顔を見合わせて神妙な空気を醸し出しているがちょっと待て、お前ら文化祭で何があった。

そりゃあ、いきなり暗闇で人の顔面にパンチを叩き込んできたり、鈍器を持って不良を襲おうとするあたり、何をしでかすか分からないという点ではある意味怖いかも知れないが。

それでも実力差はこちらの方が上なのだから、そこまで言う程でもないだろう……



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