文芸道2
□今年も変わらぬ修羅場です
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――ただし、掴まえてしまえばこっちのもの。
「――白木」
部長が神妙な顔をして私の名を呼ぶ。
もう下らないおしゃべりはおしまい。私は部長の声に合わせて、部長の顔を見た。
行けるか?
重低音で良く響く声が部室に落ちた刹那、お任せください、今回も必ず認可を受けてみせますよ――そんな答えを返しながら、私はにっこりと微笑んだ。
*****
くだらない、との呟きは森の中の爽やかな空気に揉まれて消えて、不満が惜しみなく含まれたこの文句すら無視してみせる後藤は、相変わらずこちらに見向きもせず白木の家へと歩みを向けている。そんな後藤の前を歩く桶川さんを見てしまえば、俺だってこんなくだらない用事でも無視しているわけにはいかない。際限ない苛立ちがむくむくと頭をもたげて来るけれど、それを言葉にして、結局先程の文句と同じようにさらっと無視されてしまったら俺はそれこそ自分が駄々を捏ねるガキになった気分になってしまいそうだから、頑張って口を噤む。
けれども勝手に漏れてくる溜息だけはどうにも止められそうになくて、俺は柔らかな土を踏みしめながら、結局「おい」と後藤に向けてそんな飾らない一言を口にした。
「なんで俺達が、白木の手伝いにあいつの家にいかなくちゃいけないんだ」
「いや、なんとなく」
白木のヘルプに呼ばれたのは後藤だけなのに、どうして俺と桶川さんが後藤に付いて白木の家に向かっているのかといえば、こいつがその白木からのヘルプメールを俺達にまで転送してきたからだ。無視しても良かったのだが、転送アドレスの中に桶川さんのアドレスがあったから、つい俺も出向いてしまった。
「手伝いって、何すりゃいいんだ」
「なんか運んで欲しいものがあるらしくて」
桶川さんと後藤は、森を出てすぐの所にある学校指定の貸しアパートに入っていきながら、淡々と白木について話している。眉根に皺が寄っていくのを止められない、指先が組んだ腕をとんとん一定のリズムで叩いてしまうのを止められない。
もう一度文句を言おうと思ったが、その前に桶川さんが白木の部屋のチャイムを押した。
愛想のない返事の後、鍵の外れる音がして、ドアが開く。
「昼休みに来てって……って桶川先輩!?」
あからさまに桶川さんを視界に入れた瞬間声のトーンを上げた白木だったが、そんな風に分かりやすい反応をされても流石は桶川さん、白木の反応に気付くはずもない。寧ろ気になっているのは白木が手伝って欲しいと言っていた手伝いの内容らしくて、白木の部屋の入り口に積まれている四つの段ボールに目を向けていた。