文芸道2

□協力しました
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「どうすんだよ」


小さく河内が呟く。



そんなこと言われても。責任転嫁でも意地悪でもなんでもなく、樹季も眉を寄せて河内に言葉を返せば、困ったようにしていた割に、河内はハハハと乾いた笑みを漏らす。それからその笑いを引っ込めて、お前がそもそも露出狂まがいのことするから――とまた喧嘩腰で樹季に食って掛かる。相手にしている場合ではない、と口喧嘩の応酬をやめたのは樹季の方だ。

桶川の、皺の寄った眉根が震えている。伝い落ちる冷や汗、青ざめる樹季の顔を見て桶川は一言言った。


「行くぞ」



校舎の方へ向かって歩き始める番長の背を追って、樹季を含む三人は校舎の方へ向かう。不良の中に一人一般人の樹季が混じっていることについては、余裕が無かったりそもそもはなっから気にしていなかったりで誰も口にはしない。黙って桶川に付いていくのみだ。

そして、もうすぐ校舎入り口が見える、という位置まで来たとき。

「「「桶川さんっ おはようございます!!!」」」


ずらっと並んだ学ランを着た不良たちから綺麗な礼と共に挨拶が飛んできた。文化祭の時桶川に立てついて殴られていたメンバーだ。大勢の不良に囲まれた樹季が気後れしてびくっと肩を跳ねさせた。



「ああ?」



まだ不機嫌さを引き摺っているのか、桶川は低い声を漏らすと、そのまま並んだ不良たちを蹴り倒して歩みを進めた。

「よかったっスね! みんな桶川さんの下に戻ってきたみたいです」

「現金な野郎共だぜ」

桶川の不機嫌さなど意にも解さず桶川に話しかける後藤の後ろで、うわあ痛そう、と真っ当過ぎる感想を飛ばすよりも先に、樹季はとんでもない衝撃の波に揉まれてしまった。
なぜなら、ううう、と唸って転がる不良が居る先にあった植え込みから覗いた男子生徒。不良とは程遠い、寧ろ真面目そうなことこの上ない神経質そうな男子生徒はこそこそこちらを伺うように見ていて……というか視力のせいでよく分からないがあれは高坂だ。高坂がこちらを見ていた。

結局最後まで協力することはできなかったけれど、比較的一緒に居る時間が長かったので高坂の性格は多少掴めている。
わざわざ不良の朝の挨拶を見にここまで来るような人物ではないだろう。

樹季は隣に居る河内を肘で突き、高坂の存在を知らせた。

河内は一瞬顔を顰めたが、樹季の視線の先に気付き、ああ、と得心のいった顔をする。


「――おいテメエもだ、河内」



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