文芸道2

□協力しました
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「ひどいなあ桶川さん」

「昨日の今日で何言ってんだお前は」

「昨日は敵でも今日はちゃんと子分ですよ」


桶川と河内のピリピリとした会話の横で、後藤は呑気に樹季に向かって、クマできてるぞーなどと話しかけてくる。
そうか、もしかしてこのやりとり日常茶飯事か。


「後藤君、河内君のあの態度、大丈夫なの」


ゴキッと鈍った音を立てて首を樹季の方に向けた後藤が、樹季の背に合わせるようにほんの少し屈む。


不良にしてはまっすぐな瞳から一瞬疑問の色が浮かび、なにが?と言いかけた一言を飲み込んだ後藤は何かに気付いたようにああ、と頷く。桶川さんがいいっていうならいいんじゃねえの、と楽観的すぎる言葉が後藤の口から出る。

下剋上をした側と受けた側にしてはとてつもなく奇妙な話だけれど、この三人にとっては昨日の騒動はその程度のものなのだ、それこそ一発殴る程度で許せる程、三人の中でなにか分かり合っているものがあるのだと樹季が気付いたのは、河内を見る桶川の目が、決して『裏切り者』を見る目ではなかったからだ。

樹季との会話が終わり背を伸ばした後藤の背がギシリと軋んだ音を立てて、昨日動けない程にボロボロだった後藤の姿を思い出した。一つの空間の中、生徒会側に付いていた二人と生徒会から学校を守る側に居た二人が当然のように一緒に居て、会話をしているのはどこか奇妙だな、と樹季は眠気の支配する頭でぼんやりと考えた。




「……白木、なんか顔色悪くねえ?」


後藤の言葉に、桶川と河内が口論をやめて樹季を見る。そんなに目立つかな、と樹季は自分では分からない顔に手を当てた。


「気分悪いんなら保健室行ってろよ」


にこやかに河内が言うが、樹季には『さっさと失せろ』という河内の裏の声がしっかり聞こえた。失せろもなにも君が引き止めてたんでしょうが。



「ちょっと寝不足なだけだから大丈夫」

「いやいや無理するなよ、腹にも大きな痣作って痛いだろ?」



ちくちくとどこか棘棘しい言葉の応酬をする二人に、KYから一言、爆撃が落ちる。


「河内、腹にも大きな痣って、白木の腹見たのかよ」


はっはっは、と笑い交じりに言われたその言葉に、予想外に河内が動揺するように唇をわななかせて、何も言えないまま後藤に焦ったような顔を向けている。
そしてなにも言えない代わりに樹季の頭を軽く叩いて、違う、こいつが、とおたおたと手を彷徨わせる。けれどもやっぱり後藤は空気を読んで黙ることをしない。


「え?何?白木が腹見せたの?」


暗い空気も一瞬で吹き飛ばして、すぐさま明るい空気に作り変えてくれる後藤の人柄は嫌いではないけれど、でも本音を言ってしまえばお前少し黙れ、である。せめてどよどよと不機嫌オーラを漂わせている桶川に気付け。




「なーんだ、河内、白木には近付くなって言ってたけど、仲良くなってんじゃん」




もう黙れよお前!!誤解を招く言い回しもやめろ!

樹季と河内の心情が一致した瞬間である。


「「違うんですさっき怪我の話してて!!」」


樹季と河内が同時に桶川に向かって弁解をする。樹季と河内の息がぴったり合った瞬間である。


「怪我……」


「ほら昨日言ったじゃないですか、黄山に殴られた……」



桶川の眉根に皺が寄った。



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