文芸道2
□さあ、まず君の望む物語の話をしよう
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こんばんは、と感情の起伏の無い声が屋上に響く。
感情の隠し方が上手いのか、それとも感情の表し方を知らないだけなのか。どちらにせよ、彼女の言動からは何も読み取れないのだから、腹を探ろうとしても無駄だと思う。が、とにかく彼女がここに来た理由を聞かなければ意味が無い。
そう思い、下手な駆け引きは抜きにして、ストレートに彼女が自分に会いに来た理由を尋ねるために言葉を吐き出すことにした。
くるり、と花房雅は振り返る。
「何か僕に用?」
暇潰し程度に眺めていた、キャンプファイヤーもさして自分の興味を引くものではなかったから、そろそろ生徒会室に戻ろうかと考えていた花房だったが、その前に制服に着替えた樹季が屋上の扉を開けて近付いてきた。
由井に借りたサングラスをしっかり掛けてきている。
「言いたいことがあって」
屋上のフェンスに凭れて樹季と向き合う花房は、樹季とは別の、感情の読み取れない顔で微笑んだ。
「なに?」
今回の事に対する恨み言か、今後樹季にちょっかいを出すことについての牽制か。言われるとしたらその類のことだろうと予想を立てて、花房は樹季の答えを促した。
しかし、樹季の答えは、そのどちらでもない。
「もう、心配して下さらなくて結構ですから」
流石の花房もきょとんと目を瞬かせた。花房の表情を見て、言葉が足らなかったか、と樹季は返答を続ける。
「貴方、私の友達を増やそうとして私を今回の騒動に巻き込んだでしょう」
さっき唐突に気付きました、と樹季は溜息混じりに言う。
後夜祭で使われている僅かなライトの光を浴びて立つ樹季。それにゆるゆると首を傾けて見せた花房は、不意におかしそうに目を細め、ふっと吹き出し、それから耐え切れなかったかのようにけらけら笑った。
会長?と樹季が怪訝な声を上げる。だが花房は何も反応を返さないまま、樹季が近付いてくるのを目の端で追った。
「あーおかしい。僕ってそんなに優しい人に見える?」