文芸道2
□期限付きの尋問
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佐伯先生が尋問なんて始めるからそれに気を取られて、という文句はどうにかこうにか口の中に封じ込める。だって、そんなの口にしちゃったら、確実に佐伯先生の鉄拳が飛んでくる、恐い。
日が暮れて、寒くなってきたから。それを理由にするのはどうかと思うけど、戦慄的な意味で寒くなってきたのは本当なので佐伯先生に断りを入れて数学研究室を後にする。抜けた腰はいつの間にか元に戻っていた。
桶川先輩を、探そう。
私が行ったところでどうにかなるとは思わないけど、このまま何もせずに全任せはできない――なんて考えながら人気のない廊下を小走りで進んでいると、グラウンドの方で後夜祭のキャンプファイヤーの準備が進められているのが見えた。
もう後夜祭の時間か。人が居ない筈だ、と思ってグラウンドに目をやると、目的の人物がグラウンドの端に座っているのが見えた。
大分距離があるけれど、視力が悪くてよく見えないけど、見間違えるはずがない。ずっとずっと見てきたのだ。
グラウンドに座ってキャンプファイヤーを眺めている桶川先輩は、今日一連の騒動が無かったかのようにけろりとしていて、私は安堵よりも先に、ああやっぱり、と納得した。
思えば、桶川先輩に騒動を託したのは、彼ならどうにかしてくれると心の奥で分かっていたからかも知れない。
私が生徒会に力を貸したことも、気にするどころか、そんな細かいことどうでもいいと笑い飛ばしてくれると、きっと私は分かっていたのだ。
桶川恭太郎は、それほど大きな器の持ち主なのだ。
――肩が軽い。
――これが人を信頼するということなんだろうか。
後藤に芋を渡している桶川先輩を見ながら、ぐるりと自分の肩を回す私。
あのひとならきっとなんとかしてくれる、という考えはこうも気分を楽にしてくれるものだったのか。押しつけというと言葉は悪いけどそれに信頼が伴っているとなんとなく頼ったこちらも嬉しい。
なんだかずっと暗い気分を抱えていた自分の存在が馬鹿馬鹿しくなって来た私が盛大に息を吐くと、夕方の空気で冷えた窓がふわあっと曇った。何とはなしに、結露を指で拭いて遊ぶ。
キャンプファイヤーの炎が窓越しに揺れている。
その時、唐突に気付いた。
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あとがき。(2013.3.26)
前回番長が夢主を押し込んだのは男子トイレだったらしい。
そろそろ影の薄くなってきた鷹臣君をキーキャラにする予定だったのに、あんまりキーポイントになってないね。
次のお話で会うあの人が鷹臣君の出番全部かっさらっていった。