文芸道2

□期限付きの尋問
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「まあお前には色々聞きたいことがあるしなあ。最近の出席の件とか――神隠しの件とか」

「え」



尋問開始の幕開けであった。





*****





「……それで、後輩の立場を守るために生徒会に協力した、と」

「……はい」



本日二度目の自白を終えた。

真向かいに座る佐伯が樹季の名を呼んだ。白木、と確かに呼ばれた樹季は、俯かせていた顔をゆっくりと上げ、ああ、絶対怒られる。とばつの悪そうな表情を作った。名前を呼ばれてしまえば、いつまでも口を噤んでいる訳にはいかなかった。未だはびこる気まずさは頑張って無視する事にして、樹季は机の下で両手の指をもぞもぞさせながら、漸く小さな声ではい、と返事をした。



「反省してるんだな?」

「……はい」


そうか、と佐伯はにっこりと――そりゃあもう、数学のテストでクラスの平均点が90点を上回ろうと絶対に見せないであろう笑みを浮かべた。


「じゃあ、態度で示せるな」


すっ、と目の前に差し出されたのは入部届け。既に部活動記入欄に『風紀部』と書かれている。



「……私文芸部なんですが」

「文芸は兼部可だったろ」


はい、これペンな。とボールペンを差し出される。

悪徳商法に引っ掛かったような気分だった。





*****





「大体お前、学生寮の、しかも野郎しか頼る当てが無かった、ってどんだけ友達いねえんだよ」


連絡先が分からなかったというのも理由だが、頼る友人がいないのは事実なので反論はしない。



本当は、誰にも頼りたくないんだけど。人に迷惑を掛けるのが嫌だから。

本当は、誰にも頼りたくないんだけど。人に頼って、断られた時に傷つくのが嫌だから。

きっとそれは臆病な人は誰だって持っている感情だと思う。

ただ私はそれが人より顕著なだけで――あれ、それなのに。



顔を上げて一番に飛び込んでくる光景は、向かいに座る佐伯先生の満足そうな顔だった。

私が兼部で風紀部に入部したことにご満悦らしい。

私は、佐伯先生の顔を見ながら、ひどく落ち着いている自分に気が付いた。

今回の騒動を、桶川先輩に任せる形になっているのに、私はなぜこんな風に落ち着いているのだろう。


そりゃあ、怪我してないかな、とか、悪いことをしたな、とは思うけれど。


いつも人の力を借りようとする時に感じる、迷惑がられてたらどうしよう、だとか、そういう臆病な感情が湧いてこなくて、代わりに私は佐伯先生の笑顔を見上げながら、ぽかんと間抜けに口を開いた。

――そうだよ、人に全任せしておいてなに呑気に座ってるの私!?




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