文芸道2
□期限付きの尋問
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教師というものは本当に面倒だ。
祭りの見回りをしながら佐伯鷹臣はそう思う。
佐伯の担当している1組も、1組と連携して出店を行っている2組も、問題児らしい問題児はいないからそれほど気を張る必要はないが、問題は校内全体に入り込んでいる不良だ。
風紀部の目を掻い潜ってうろちょろしている黄山を掴まえ、教育的指導をしていた。面倒臭い。ったく、なるべく文化祭前にごたごたは終わらせようと思ってたのに、結局食い込んじまった。それに文化祭終了後の報告書も作らねえと……。
そう思ってから、一階の校舎をぐるりと回り、異常がないか確認しようとしていた時だった。
「ここ男子トイレなんですけどー!!」
……男子トイレから女子の声が聞こえた。
経緯は分からないが、とにかく叫ぶのをやめさせようと、佐伯は集まり始めていた人垣を押し退け、男子トイレに踏み込んだ。
「あっ」
「何やってんだお前」
きったねえなあ、と佐伯が呟いたのは、樹季がぺたんと男子トイレの床に座り込んでいたからだ。
「腰が抜けました」
「いやだから、なんで男子トイレに居るんだ」
「成り行きです」
端的に答える樹季に、怪我をしている様子は見られない。どうやら本当に腰を抜かしているだけらしい、と判断した佐伯は、座り込んだままの樹季を抱え上げる。以前俵担ぎで真冬を運んだ時に、生徒からブーイングを貰ったので、今度は最初から横抱きだ。
樹季は慌てた様子も見せず、黙って佐伯にされるがままになっていた。
「ほらお前ら、散れ」
人だかりが増えていたので、そう言って散らす。
すうっと冷たい風が通って、樹季の髪や服を靡かせる。どうやら窓から押し込められたらしい、ぶつけた額を擦りながら樹季は佐伯に抱え上げられた状態で、そしてトイレから出て廊下を進む佐伯に小声で訪ねた。
「佐伯先生、どこに行くんですか?」
「数学研究室」