文芸道2
□ジェントルライオン
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「まあ生徒会の話は夏男に聞いてたからな。お前がそれに協力してるってのは、夏男が神隠しに会った、って聞いた時に気付いた」
「へ」
「お前、あの時、俺でも後藤でもなく、わざわざ初対面の夏男に付いて見回ってたろうが。それ、神隠しの起こる教室の前に夏男が残ったからじゃねえのか」
いい具合に携帯のアラームは神隠しの起こる五分前にセットされてたし、と言う桶川に、樹季はしばらくぽかんと呆けたような顔をしていたが、すぐにあああああぁぁ、と絶望したような声を上げた。
「……すいませんでした」
「ああ?なんで謝るんだ」
「神隠しが起こらなければ、もっと早く黄山に対処できたでしょうし……それに、河内君のことも」
「河内?」
「ああ、やっぱりご存じありませんでしたか。実は……」
樹季はそこで言葉を切り、困ったように腕を彷徨わせた。
「な、なにかやってるらしいです」
「なんだそりゃ」
「だって具体的に何をしてるか聞いてないんですよ黄山とバトってたことくらいしか、あっ、下剋上!下剋上するって言ってました!」
息継ぎも無しに叫ぶその姿に、桶川は怪訝な視線を向ける。
河内も何か行動を起こしていることは分かったが、樹季から聞く限りではその行動に意味があるように思えない。
下剋上をしたいというなら、生徒会などと手を組まず、自分で潰しにくればいいのだ。
頭脳派の河内のことだから、何か考えがあるのかも知れないが、それは本人に直接会って確かめた方が早いだろう。
それよりも。
「で、どうしてお前は生徒会に協力してんだ」
まさかこの間のふしだら発言に怒って、というわけではないだろう。
……無いと思いたい。
「いえその、それがですね、後輩の、ほらあの下まつげの子、夏休み中、その子にお世話になってたことで生徒会長にばれちゃいまして……」
はは、と樹季は乾いた笑みを漏らす。
「お世話に、なってた……?」
「はい。無断入居の手配を手伝わせちゃったんですよね」
「無断入居?」
「無断入居」
てっきり、綾部の部屋に世話になっていたという話だろうと思っていた桶川はきょとんとした顔で樹季を見た。
忘れるなかれ。桶川の中でまだ樹季と綾部の関係は、『そういう仲』だという認識のままだったのだ。
「アパートが夏休みの間に火事になっちゃいまして。たまたま覚えてたのが学校の寮の番号だったんです」
「……」
「先輩?」
ふーっと長い息を吐いた桶川を、樹季は不思議そうに見上げる。
それどころではない状況なのは百も承知だが、何だか重い荷物を降ろした時のような気分だ。
「それで、世話になったのに恩を仇で返すことになるから、生徒会に協力してるんだな」