文芸道2

□ジェントルライオン
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黄山生である俺は怯えていた。




カッとなって、正門を封鎖する桶川に挑んでいった黄山の仲間たちが、比喩ではなく本当に殴り飛ばされ空を舞う姿に意気消沈し、森の中に逃げ込み、どうにかどこかの校舎の外壁にたどり着いたのはいい。


いいんだが。


「……これからどうするよ」


逃げた俺にちゃっかり付いて来た仲間の一人が放心したように呟く。どうと言われても、もうこの場所に長居したくはないから今すぐにでも帰りたい。


しかし正門には桶川。


「……積んだ……」


がくうっと二人で膝を付き、頭を抱える。

森のように茂った植え込みの所為で視界は広くないが、黄山の叫び声は聞こえてくるので正門からそう遠くはないんだろう。近い内に、残党がいないか探し回る桶川に見つかるかも知れない。


そんな事を考え、絶望に打ちひしがれ、二人で俯いていたので、俺達は、そっと忍び寄る人影に気付かなかった。


「ぐっ」


仲間の呻き声に、俺は反射的に顔を上げる。瞬間、なにか固いものに思いっきり眉間を殴られ、俺は後ろに転がった。
ちかちかと赤や黄色のサイケデリックな色彩が脳裏を掠める。眩む視界のまま瞬きを繰り返し、なんとか立ち上がる。
そして姿勢を低くした戦闘態勢で俺を殴ったと思われる人物を見た。




「……は?」


目の前に立っていたのは、桶川でも不良でもない、ひらひらした服に、猫のイラストが描かれた看板を持った女子生徒だった。予想外の人物に、俺は反応できず間抜けにその人物を見つめる。
女子生徒は頭を殴られて倒れている仲間を避け、ゆっくりと俺に近付いてきた。
着ている服や髪型は可愛いのに、肝心の本人の表情に感情らしいものが浮かんでないのが恐ろしい。

俺は、どうやら俺を狙っているらしい女子生徒に対し、どう反応していいか分からず、引き攣りながら笑顔を向ける。


「あんた、不良じゃなさそうだけど……緑ヶ丘か?」



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