文芸道
□はにかみをあげる
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「教室に向かおうとしてるところ悪いんだけど、ちょっと頼みごとがあるんだ」
新学期早々、眠い眠い全校集会をやり過ごし、教室へ向かおうとしていた先にこれだ。
本当についてない。
***
一時間目、屋上。
サボりの定石と言えるその場所に桶川が居ることは不思議ではなかった。
だが。
「なんであんなに黄昏れてんだ……?」
「さあ……」
フェンスに片手の指を引っかけ、ぼーっと景色を眺めているように見える桶川は、先程から動こうとしない。
放っておけば、一日中でもそうしていそうな様子だった。
ここで空気を読んで黙っておれないのがナンバー3、後藤である。
「桶川さーん、どうしたんすかー?」
「お前ら……」
桶川が顔だけを振り向かせ、後藤と河内を見た。
今まで二人の存在に気付いていなかったのか、反応が少し遅かった。
桶川が自分たちの気配に気付いていなかったのも驚きだが、桶川が予想以上に眉根に皺を寄せていたのに驚いた。
やばい、不機嫌モードだったか!?ととっさに身構える後藤の横で、河内が、あ、と小さく声を上げた。
なにかと思い、河内の視線を追った桶川と後藤も、遅れて、あ、と声を漏らす。
「白木だ」
後藤がそう呟いて、フェンスの方に寄り、裏庭を見下ろす。つられるようにして、桶川と河内も裏庭側のフェンスの方に身を寄せた。
***
桶川たちが覗き込む屋上の真下――
時間的にはサボりになるよなあ、と思いつつも、白木樹季は花房に言われた通り、裏庭で目的の人物が来るのを待っていた。