夏目友人帳 長編図書室

□プロローグ
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その子は、おれのクラスに転入してきた。

ツインテールで、少し幼い顔立ちで…転入初日で緊張しているのか、スカートをきゅっと掴んでいる。


「は…初めまして…。鈴代深雪と…申します…。」


透き通っていて、綺麗な声だった。

彼女は宜しくお願いします…と深々とお辞儀をした。

彼女の席は一番窓側の席で、おれの隣だ。

おれが宜しくな、と言うとオドオドしながらも宜しく…と言った彼女が、なんだか可愛らしいと思った。


「あの…教科書……私、まだ…」
「ああ、引っ越して来たばかりだからまだないんだな。一緒に使おう」
「…ありがとうございます…」


その日は机をくっつけて授業を受けた。

横目でちら、と彼女―鈴代さんを見ると、姿勢がすごく綺麗なのに気付いた。

それから何気なく教科書に目を戻した時―


「………!?」


―なんとなく、すぐ近くから妖の気配がしたような気がした。

おれは夏目と違ってハッキリ見えるわけじゃないから、気のせいかもしれないけど…。


(―まさか、な。)


まさかこの転入生に憑いてるなんてこと―


「あの…私の顔に…何か、ついてるんですか…?」
「えっ…」


どうやらおれは授業中にも関わらず、鈴代さんの顔をまじまじと見ていたらしい。


「…ごめん、何でもないよ」


そう言って微笑むと彼女は不思議そうにしていたが、やがて教科書に目を戻した。

―妖の気配はまだする気が…。

でも、悪い感じはしないから…大丈夫だと思うんだけど…。



(…んー…。夏目には言っておくべきか?)




この時はまだ、まさか彼女に恋心を抱く、なんて…

…全く考えてなかったんだ。





プロローグ Fin.
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