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□銀色の愛しい人
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「紺野?」
「私の子です。」
ぎゅうーっと子を抱きしめた。
先生は立ち止まりゆっくりとこちらを見た。
見慣れていたはずの瞳は久しぶりのせいか以前見た時よりも真剣な眼差しでドキリとした。
「だって、私が勝手に生んだんです。先生の気持ちも聞かずに。自分のしたいようにしたんです。先生が気にする事じゃありません。これからも、先生に迷惑はかけません。先生に嫌な思いをさせてごめんなさい。」
「そうか。」と先生は感情のない声で一言言った。
「はい。」
なんとなく先生の顔を見れなくて、抱き上げていた子の肩に顔を埋める。
勝手に自分が決めた事だからと先生が責任を感じる事はないと思っているのに、先生の「そうか。」の一言が重くのしかかる。
「……なんて言うと思った?」
「え?」
顔を上げようとしたところ先生に抱きしめられた。
子を挟んでの抱擁に、子が身動ぎするのが判った。
子の頬と先生の頬に挟まれて、突き放さなきゃいけないのに心地がいいとさえ思って。
「先生……」
「お前が行く大学を変更して、会う時間が少なくなって、俺がどんな思いでいたか少しも知らねぇだろ。陽花の腹に子が宿って俺が逃げ出すと思ったのか?」
何故だか背に回された先生の腕が少し震えていた事に切なくなって、涙が零れそうなのを必死で堪えた。
「一緒にいさせて―…。」
小さな声でぼそりと言う声に堪えられなくてたくさんの涙が溢れた。
子が生まれてからどんなに辛くても涙が出る事はなかったのに先生のたった一言でこんなにも泣けるとは思ってみなかった。
先生?
私達、先生の傍にいてもいいんですか?
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