Long

□Veuillez me penser
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流暢な英語が私の右耳から流れてくる。

少し近い位置にある先生の口唇は私の耳に息がかかり擽ったい。

これが坂田先生だったら、一秒も隣にはいられない。

「こらっ、聞いてんのかぁ?」

コツンと頭を軽く拳骨された。

高杉先生は見た目と同じで手が早い。

「はい。」

「そういやぁ、家庭教師代はどうなってるんだ?」

「なっ……教師が生徒からお金とるんですか?」

まじまじと先生の顔を見ると片方の口角を上げ笑んだ。

「教師だがなぁ、時間外労働だ。」

「先生から誘ったのに…」

「ああ!?はっきり言え。」

「分かりました。私のプリンパフェあげます。」

注文したパフェを先生の前に置いた。

「甘い物は好まねぇ。そうだなぁ、紺野が二十歳になった時酒でも奢ってくれや。」

「私が二十歳になった時。分かりました。その代わり安いとこですよ?」

「ああ、日本酒の旨い店、探しとく。」

「はい。」

「先生にも何か奢りなさい。」

コンとテーブルが叩かれる音と共に坂田先生の声。

「さっ、坂田先生!!」

「よぉ、遅かったじゃねぇか。」

「なんで、並んで座ってるんですかー。」

「ふっ。そりゃあ、隣じゃないと不都合だからだろ。」

ひくりと坂田先生の口元が歪められた。

「紺野、こっち座りなさい。」

「わわっ!?」

私の腕を掴み立たせてから向い側の席に座らされた。

そして……

私の隣に坂田先生が座った。

「あのっ、先生。」

「んー?」なんて言いながらメニューを開きデザートのページを見る先生。

「なっ、なんで隣……」

「なんでって、高杉の隣座っても萌えねぇだろう。」

「こっちが願い下げだ。それより紺野。早く食わねぇと溶けんぞ。」

高杉先生は案外優しい。
私の前にパフェを置いてくれた。

「ありがとうございます。」

坂田先生は、私のパフェをちらりと見ると同じ物を注文した。

………

なんか嬉しい。

同じ時間に同じ場所で同じ物を一緒に食べれるなんて

思ってもみなかった。
 

「で?」

食べ終わるとけだるげないつもの先生より少し低い声にドキッとする。

私も高杉先生も顔を坂田先生に向ける。

「なんで、二人でお茶してるんですかー。」

「気になんのか?そりゃあ、ひとつしかあるめぇ。男と女が一緒にいるんだからなぁ。」

高杉先生には妖しい笑みが似合う。

「たっ高杉先生!!坂田先生違うんです!!本屋さんで参考書を探していたら、高杉先生に会ったんです。そしたら、待ち合わせしてる人が来るまで勉強をみてくれるって言ってくれたんです。」

誤解されたくなくて一気に言った。

「ふーん。じゃあ、二十歳になったらって?」

「それは…「二十歳になったら居酒屋デートしようって約束だ。」高杉先生!!」

「違います!!」

一生懸命弁解するこいつが可愛くてつい意地悪した。

俺を見上げて大きな瞳を見せている紺野は学校で見るよりも雰囲気が違ってもっとおとなしい生徒だと思っていたのはどうやら違うようで、かなり驚いた。

真っ赤な顔で必死になる紺野に昨日までとは違う気持ちが生まれた。


「なぁ、銀八。」

「あ?」

紺野が帰った後、高杉が静かに話しだした。

「俺が生徒達に薦めた参考書はな、今日紺野が持っていた物じゃねぇんだ。」

「……は?」

意味が分からなかった俺の顔は酷く間抜けだったんだろう。

高杉が短く笑った後の言葉に言葉を失った。

「俺が薦めたのは表紙が茶色だ。あいつが買ったのは銀色。」

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2008.9.14 林桜花
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