Long

□銀色の愛しい人
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「んー――!?」

今日も一日、Z組の奴らを相手に疲れた身体のまま、帰りがけにスーパーに寄った。

買い出しを終え出口に向かうと、一人の少年が足をプラプラさせながら、外を眺めていた。

その後ろ姿が自分に似ていて、銀髪の天パの少年。

なんとなく気になって見ていると視線を感じたのか、その子が振り向いて。

「―――」

自分の幼き頃を見せられているようで驚いた。

ぽけーっとした顔でこちらを見ていた子は、興味をなくしたのか前を向いてしまった。

「まさかな。」

ズレた眼鏡を押し上げ何事もなかったように歩く。

「彩ちゃん、遅くなってごめんね。」

「ううん。」

振り向いたそこに銀髪の少年の母親らしき人。

「さっ、帰ろうか。」

手を繋ぎこちらに歩いてくる親子連れに目が離せない。

「紺野……?」

目を見開き驚いた顔を向ける、元教え子。

卒業以来会わなかった、元生徒。

「せっ、先生……。」

子を後ろに隠すように立ちすくむ君。

「ママ?」と不思議そうな声をあげる子。

彼女とは彼女が三年にあがり、クラス委員をやっていた事から何かと話す事が多くて放課後二人で過ごす事もありお互いいけないと思いながらも愛しさが増えていくのは止められなくて、夏が過ぎる頃恋人になった。

俺としては君が卒業するまで待つつもりだったけど、想いの方が大きくなるばかりで男女の関係になるのに時間はかからなくて、君を大事に抱いた。

卒業しても君との未来があると思っていたから。

君との関係が崩れ始めたのは、地元の大学に進むはずだったのが急遽進路変更して、遠い大学に行ってしまってから音信不通になった。

「紺野。」

「先生、すみません。急ぎますので、失礼します。」

子の手を引き走るように、去っていく君を何故か引き止められなかった。

二人の方を見ると俺似の子だけがこちらを見ているのが笑えた。

どんなに隠してもどんなに離れても君はやっぱり俺と繋がっていたんだと。

「同じ街に住んでたんだな。」
 

「どうすっかな。」

後頭部を掻きながら教室を後にする。

彼女の友達だった奴らを思い浮べる。

沖田に志村、土方に近藤もそうだったか。

職員室の扉を開けて、なんてラッキーな俺!

「あー。土方。」

もう卒業して何年も経つのに職員室にいる事はこの際問い詰めないでおこう。

瞳孔が開き気味の奴が振り返る。

ちょいちょいと手招きすると嫌そうな顔をしながらも側まで来てくれる。

「なんすか?」

「お前さぁ、今でも紺野と交流あんの?」

「……そんな事聞いてどうするんすか。」

「確かめなきゃいけない事があんだよ。」

「俺の一存じゃ決められねぇ。」

タバコに火を点けちらりと土方を見る。

何か知ってるんだと確信。


「今日、総悟は?」

「友達の家に寄るそうですよ。夕食は十四郎さんの好きなもの作りますからね。」

「ああ。」

ソファーに座りタバコに火を点けようとした瞬間。

ピンポン連打。

「どこのガキだよ。」

キッチンからミツバが出てくるのを制して玄関に向かう。

「ありがとう。十四郎さん。」

「はい、はい。」

扉を開けた先に紺野の泣きそうな顔とぽけーっとしたあの教師似のガキ。

「ひっ土方くん!せっ先生に会っちゃった。どうしよう、彩人の事判っちゃったかもしれない。」

「まぁ、とりあえず入れ。」

「うっうん。」

頭の中がごちゃごちゃのまま、ミツバちゃんの家にまで走ってきた。

高校の頃先生が大好きで恋人になれて、幸せを実感していた私のお腹に宿った命。

大学受験の大変な時に授かった命をなくす事は考えられなくて、先生に「堕ろせ」と言う言葉を聞きたくなかった私は、先生と別れて子供を生む事を決心した。

学業と子育ての両立は思っていたよりもずっと大変で、何度も挫けそうになった私にZ組のクラスメイトが助けてくれた。

先生そっくりの息子は、日に日に先生への想いを増幅させていく存在と同時に愛しさも募った。

「陽花ちゃん大丈夫?彩人くんはココアでいい?」

「うん、甘いのがいい。」

「ふふ、はい。」

ミツバちゃんがキッチンに向かったのと同時に土方くんが煙を吐き出す。

「マヨ、煙い。」

「何いぃっ。マヨじゃねぇよ!」
 

隣に座る子を抱き寄せる。

失いたくない大事な子のふわふわ髪に口づけをひとつ。

「ママ。」

「うん?」

ぽんぽんと私の肩を慰めるように叩いてくれる子に涙が零れそうになる。

「紺野、銀八が父親なのは変わりようがない事実なんだから、話し合った方がいいんじゃねぇか?」

「………」

「お前、まだ好きなんだろ?」


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