Long

□Veuillez me penser
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私の毎朝の日課。

坂田先生の机の上を拭く事。

国語準備室の坂田先生の机の上は雑誌と吸殻で溢れてる灰皿と甘いもの。

雑誌を揃えて端に寄せて吸殻を捨てて食べ散らかしたパッケージを捨ててから机の上を拭く。

そして、坂田先生が大好きなイチゴ味のキャンディをひとつ。

直接、先生と話す勇気もなくて

このまま、忘れられるのも淋しいから

先生の記憶に残りたくて、後期の国語係に立候補した。

国語係といっても特にする事もなくて

だから、先生の机の上を拭こうと決めた。

毎日、毎朝、必ず。

先生の机を綺麗にする。

先生が来る前に任務を遂行する為、早起きしなきゃいけないけど、そんな事苦にはならない。

早く、私の気持ちに気づいてと……



ふわりとスカートを翻し、小走りに階段を上っていく女生徒。

俺のクラスの生徒。

紺野陽花。

後期の国語係に立候補した時はとても驚いた。

個性豊かなZ組では比較的おとなしい生徒で自分から動くタイプではないから。

紺野が係になってから俺の机の上は整えられた。

いつも、俺が着く前に綺麗にしてくれているのだろう。

紺野がやってくれているのだと気づいたのは三日経った頃。

そして、ぽつんといつも置かれているイチゴ味のキャンディは紺野が置いているのだと気づいたのはそれから一週間後。

糖分命の俺が何故か食べられないキャンディは増えていくばかり。

無造作に机の一番上の引き出しにしまわれた

毎日ひとつずつ増えるキャンディはなんとなく笑みが零れるような微笑ましいもので

今ではそれらをひとつの瓶に入れて自宅の冷蔵庫に置いてある。

朝、机に置かれたキャンディをポケットに入れて自宅に帰り冷蔵庫の中の瓶に詰める。

これが俺の毎日の……日課
 



「銀色……」

この間、英語の高杉先生が大学に受かりたいならと、お薦めの参考書を教えてくれた。

それを買うために大きい本屋にまで出向いた。

休日の昼下がり。

先生、お薦めの参考書の隣にそれは置いてあって。

思わず手に取ると、あの人を思い出させた。

「あっ―……」

今まで私の手の中にあった参考書が突然なくなった。

行方を探すように隣を見る。

「高杉先生。」

私が見ていた参考書を無表情のまま、パラパラと見ている先生。

「紺野。」

視線も合わせずに参考書を見たまま、静かに私を呼ぶ。

「はい。」

「俺の授業聞いていたのか?」

ゆっくりと口角を片方上げた先生は私を見る。

「お前が志望した大学に受かりたいなら、こっちよりこっちだ。」

ぽかっと銀色の参考書で叩かれた。

「痛っ…!」

そのまま先生の手から参考書を受け取る。

先生の瞳はとても鋭くて、怖いけど

それでも私はこの気持ちを曲げたくない。

「先生。」

返事もせずにちらりと私を見て視線を合わすだけで先を促す先生に若干逃げたくなった。

「例えば、この参考書を使用した場合受かる確率はどのくらいですか?」

「あぁん?」

怖っ……!

私は視覚からの恐怖を拭い去るように目を瞑り先生に告げた。

「私、今より先生の授業を真剣に受けます。そして、今までより勉強も頑張ります。」

絶対手放したくない!!

坂田先生が応援してくれるようだから現実では傍にいてもらえない人。

だから、失いたくない。

吐息だけで笑う先生は、私の手からもう一度奪い本を開いた。

「仕方ねぇから、教えてやる。」

「あっ…ありがとうございます。」

「今から時間あるか?」

腕時計に視線を落とし問う先生。

「今からですか?参考書買いに来ただけですから時間はありますけど。」

見ていた参考書を閉じて私に渡してからニヤリと笑んだ先生。

「待ち合わせしてる奴がくるまで、勉強見てやるよ。」

 
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