小説板

□RULE RE:VERSE
1ページ/13ページ

夕空の眩しいような、うっすらと透き通るような赤。
その色が瞼(まぶた)の上から、突き刺さる痛みと共に強く伝わる・・・・。
体中が痛みに襲われ、思う様に動けない。
ここは何処・・・・?
表皮から感じる微妙な感触だけで、
自分の立ち位置を探るにはいささか無理がある。
とはいえ、目を見開くだけの勇気と確信を私はまだ抱けはしなかった。
手足に絡む地表土の冷感は心地よく、
私の張り詰めた心拍をしだいに溶かしていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・
心が生き返る。

目を開けると、私はゴミ溜めの上にいた・・・・・・。
空は私を見つめる。
どことなく気持ち良い・・・・。
もう少しだけ、眠っていたい。
再び目を閉じる。
・・・・・・・・。
誰かが私を、見つけた気がした

辿り着いたのは真紅の空と積まれた町
どちらもカラであることにまだ気付きはしない



意識が混濁(こんだく)している。体も思うようには動かない。
四肢が繋がってないみたい。自分が誰なのかもよく覚えていない。
鏡で自分の顔を見たけど、知らない。こんな顔、私は知らない。
混乱している。
それでも一つだけ確かなことは、目の前の小高い椅子に座る
無骨な男が、私を介抱してくれたということだ。
樹木が生い茂る中に佇む、別荘ともいえる一軒家に
この男は一人で住んでいるのだ。
周りには西洋、北欧などのアンティークの数々。
センスの違った陶磁器。
これ等を見渡すだけでもこの男の性格がほんのり形づく。
でも私は私で、こんなボロボロのチュールワンピースを着ているのだし、
人のこと言えないかも・・・。
「何も覚えていないというのか?」
男はふてぶてしい態度で、窺うように私に尋ねた。
初対面の人間が、助けても貰った上で、曖昧な返答しか広言しないのだ。
彼の態度には共感しようというもの。だけど事実だから仕方ない。
・・・・いいえ・・・・。
「いいえ。覚えているのはたった二つ。紫の蝶と、無数に並ぶ白い建物。」
「・・・・それだけ。」
何も覚えていないというのは嘘だ・・・・。
嘘。自分を取り繕う為に用意した、都合のいい産物。
「曖昧は曖昧だな・・・。それだけでは何一つ解決できそうもない。」
私にも解らない。
数多ある記憶の中で、それだけしか覚えていない、
といのは、私の人生はそれだけ薄いものだったのか・・・・。
それとも、その二つが生涯で忘れることのない
何かを形成した要因?
前者であることは望ましくない。
後者であるとしたら、それは、私にとってプラスになるもの?
不確定な要素が私を混迷させる。
これでも私は、落ち着いていることに自信を持っている。
だけど・・・・記憶障害なんて、
まるで昨日食べたランチを思い出せそうでどうしても思い出せない、
そんな不明瞭でぎこちない焦燥・・・。腹が立つ。
少し、悲しみもある。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ