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□血の鎖 第十八章
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ざわざわざわ。

人の群れ。
過ぎ行く人々の量の多さといったら、大陸随一と言っても可笑しくはない。
活気に満ち、人々の表情は穏やかで、平穏無事な毎日に何疑いも無いといった風。
街の中心には巨大な人物像。
その周りを囲むのは観光客。
大きな建物が立ち並び、一般人は立ち入り禁止の文字があちこちに見える。
商店街にはフィロッド専門のお店がずらりと並び、中には目つきの悪い人間もちらほらいる様子。
何気ない、日常の1コマ。
漸く辿り着いた目的地。

そう、ここが。

アイドとレイジが目指したヴェルバーサ大陸の中心。
二人が唯一の目的地として上げ、更には二人が出逢った記念すべき場所。

フィガロ…で、ある…―――







+++ 血の鎖 第十八章 +++



 ― 第一幕 真実 ―






二人がフィガロについたのはついさっき。
シディカルを出て、既に4日が過ぎた。
フィガロを目指し早数ヶ月。
漸く、と言う思いと緊張が入り混じる。
何と言ってもここは、「敵の懐の中」にいるも同じなのだから。

…―――時は少し前に遡る。


今から一週間前、二人はシディカルの街にいた。
目的は、リオン・シーターに逢う為。
イルミナーゼの同業にして、イルミナーゼが信用を置く仲間の一人に。
そこで知ったのはイルミナーゼの失踪。
行方不明の事実。
そして、その所在と現在の状況。
イルミナーゼは早くに手を回してくれたリオンのお陰で一命を取りとめ、しかし深い傷の為に、その意識を手放したまま眠り続けていた。
其れを知り、フィロッドの力でどうにか出来ないのかと、リオンは大切な友人の為に心を砕き、懇願してきたのだ。
普通意識の無い普通の人間相手に、フィロッドが出来る事なんて何もなく、ただ指を咥えて見ている外、無い。
だが、その場にいた唯一の治癒系フィロッドを持ったレイジが彼を助ける為に奔走。
結果として危険な賭けでは在ったが治療は成功し、イルミナーゼはその意識を取り戻した。

「イルッ」
「よぉ、」
覇気の無い声と血の気の引いた表情。
のろのろと開いた瞳はどこか気だるそうな色と痛みを湛え、ゆらゆらと揺れている。
「なんか、けっこ…寝てた感じ、するけど」
掠れ掠れに聞こえる声。
それは訊き慣れた、待ち望んだ声だった。
「イル…イル、イルミナーゼッ」
「はは、リオン。おま…なんて、顔だよ」
苦笑して親友の方を見ていた瞳がふとこちらを捉えたのを、アイドもレイジも気がついていた。
「よ、お二人…さん。なんか、助けられた、みた…い、だな」
「イル…良かった」
駆け寄って、その腕を握れば、確かに握り返してくる力がある。
弱々しいけれど、確かにアイドの手を彼は掴んでいる。
「…レイジ、だろ。さっき呼んでくれたの、は」
「…あぁ。」
レイジは小さく頷いて見せた。
彼の意識に触れたとき、確かに自分の声は彼に届いたようだ。
それでも、多分其れはレイジの力だけじゃない。
「でも、アイドも呼んでたんだぞ、イルミナーゼ」
「…あぁ、判ってる」
イルミナーゼは薄く微笑み、涙の溜まったその異色の双眸に手を伸ばした。
「心配かけた」
「ばか、やろ」
ぐしぐしとアイドは目尻を乱雑に拭って、鼻を啜る。
眼が赤く、頬が冷たいのを見て、イルミナーゼは苦笑した。
泣いてくれたのか、と。
そして、其れよりも酷い顔で泣いている自分の親友にも、そっと彼は手を伸ばす。
「お前にも、借り…出来たな、リオン」
「っ、ホントだ、馬鹿野郎ッ!この借りは、仕事で返せよっ!?」
「はは、りょーかい」
意地っ張りに、泣きながらもそう告げるリオンの姿に、イルミナーゼはまた苦笑するほか無い。
「…助かったよ、リオン」
「…ッ…ばか、が…ほんとに…生きてて、よかった…」
「あぁ、さんきゅーな」
ぐっと抱きついてきた親友の頭を撫でて、イルミナーゼは己の生に喜びを感じる。
そして、其れと同時に、伝えなければならない事を思い出して、表情を変えた。
「リオン」
「…なんだ、イルミナーゼ」
顔を擡げた親友に、イルミナーゼはそっと告げる。
「席を、外してくれないか」
「…!おまえ、…」
「リオン」
彼が何を言いたいのか悟って、リオンは唇を噛んだ。
「これ以上は、巻き込めない…巻き込みたく、ない」
「イル…」
「頼む、今…言わなくちゃいけない事なんだ」
「…」
リオンは自らの目尻を拭うと、近くに待機していた医者に目配せをした。
出ていろ、と言う合図に気がついた医者はその場を去っていく。
其れを見届けて、リオンは椅子に腰掛けた。
「リオン…っ」
「ここまで来たら、乗りかかった船だ。お前を助けた時点で十分、関与している事になる。俺にも聞かせろ。俺の事は気にするな」
「リオン…」
親友の頑なな態度。
イルミナーゼは仕方ないとばかりに、溜め息を吐いた。







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