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□血の鎖 第十二章
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ロロトアの街を出て、二週間。
二人は、『ユキウラス』の街に辿り着いていた。
ユキウラスは、医学発達が目覚ましい、街だ。
ヴェルバーサ大陸に頒布している医薬品の数々は、ここユキウラスで開発され、大陸全土に発信されている。
ユキウラスの住人の半分以上が医学に携わっており、日々新薬の開発に追われているという。
救いを求める人間がいる限り、それに答えるために日々努力する。

そうしてこのユキウラスの人間達は、生きているのだ。


そんな、
人々が住む、この街。
街のすべてが白で統一された、不思議な街だ…―――







+++血の鎖 第十二章+++




 ― 第一幕 白街 ―








「すっげぇ〜!」
街の中を見渡す限り、全てが白、白、白。
まるで雪景色のような、白で統一された、街。
ユキウラス。
レイジは、街の中を物珍しそうに何度も何度も見回して、その都度感嘆の声を上げた。
「…そうか?」
「え〜?アイドは、感想ないの?」
「ねぇよ。ユキウラスは、何度も来た事あるし」
ファジョナーブル村から、フィガロ方面の街へ南下する際には、この街を通る事が多い。
別に、此処と決めて道を選んでいるわけではないが、人間、習慣の様になっていることと言うのも、ままある。
「それに、この街がこんな風に白一色に統一されたのは、最近の事じゃねーし、今更だろ?」
「そーかもしれないけどー」
確かに、ユキウラスの街が白一色に統一されたのは、此処最近の事ではない。
およそ、30年程前から続くこの景色。
清潔感に溢れた街を目指した、と当時の街の統括者は語ったらしいが、実際この街を見ていると、若干鬱になりそうになる事もある。
何といっても、この白一色の空間が嫌になる元だ。
確かに清潔感に溢れているのかもしれないけれど、実際この白一色の空間は気分を悪くさせる。
まるで病院の一室にでも押し込められたような感覚。
気の弱い人間だったら、こんな空間。
一分だって居たくはないだろう。
(まぁ、こいつはそんな細い神経してないか…)
自分も、この空間は余り好きではないが、ずっと居ても、特にこれと言って、気に障ることはない。
まぁ、長居したくない、とは思うが。

「でもさー、ちょっと興味あるなー。ああゆうとこ」
「?ああゆうとこ?」
指差された先にあるのは、この街でも随一の大きさを誇る、研究施設。
「中で医療科学の実験してんだろ?ちょっと興味ない?」
問われて、アイドはきっぱり「ない」と答えた。
と言うか、彼自身ここの研究所は何度か視察した事があるので、「今更、ない」と言ったほうが多分正しい。
「中でやってる研究なんて、何処だってそうかわんねーよ」
日々新薬の開発に追われている研究者達だが、やっている事は何度見に来ても変わらないし、見せて貰えるのは上辺だけで、結局詳しい生成方法などは極秘扱い。
今更あんな所に、興味すらわかない。
「そういうもん?」
「そーいうもん」
きっぱりと返すアイドを見て、レイジは苦笑を零してしまう。
アイドが、何故此処の研究所なんかを視察に来たのかは知らない。
もしかしたら、自分の記憶探しに来ていたのかもしれないし、サンセットからの依頼だったのかもしれない。
どちらにしろ、既に彼が興味をなくしているのなら、自分がこれ以上口を出した所で、どうとなるものでもなく。
レイジはこの話題から話を変えようと考えを巡らせた。
ところが。
「…お前、見たいのか?」
と、背中越しに聞こえた声。
レイジは思考を止めて、アイドの方を振り向いた。
「お前が、見たい…なら、行ってもいいぞ」
伏せた瞳がゆらゆら揺れて、ほんのり赤い頬。
レイジは一瞬驚いて、その後くすっと笑みを零した。
(この子ときたら…)
興味がないと言いながら、でもレイジの事を思ってか、そんな事を言い出す。
(可愛い)
意地っ張りと言うか、不器用と言うか。
どう言い表すのが正しい物かと、レイジはアイドを見て、ますます笑みを深くした。



「じゃぁ、ちょっと付き合ってくれる?」

そう言って、頭に手をやれば、
「おう」
と、手を払いのけながら、アイドの小さな返事が返ってきた。





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